ソードアート・オンライン22 キス・アンド・フライ<br><br>見えた可能性と仮想世界で得られる本物について
ソードアート・オンライン22 キス・アンド・フライ (電撃文庫)Amazon

川原 礫(著/文)abec(イラスト)
〇あらすじ〇
『ザ・デイ・ビフォア』――《SAO》攻略のさなか、キリトはアスナにプロポーズし、二人は新婚生活を送ることに。だが新居に到着した二人が目にした光景は、思いがけないもので……?
『ザ・デイ・アフター』――新生《ALO》に新たなアバターでダイブ以来、アスナは謎の《離脱現象》に襲われていた。その原因は《SAO》時代に起こった一つの悲劇にあった――。『虹の橋』――海底神殿での冒険を終えたキリトたち。しかし海の王リヴァイアサンと深淵の王クラーケンの謎めいた会話は、一行を新たな冒険へといざなう!『Sister's Prayer』――《SAO事件》のさなか、ある少女が医療用フルダイブ機器《メディキュボイド》の試作機に身を投じた。《絶剣》ユウキ、誕生の軌跡をここに。

ソードアート・オンライン22。どうも5月9日に発売される24巻の表紙が気になったのがきっかけで読み進めるべくナンバリングで『22』と出ている巻をスキップするわけにはいかず半ば「短編集か~・・・」という気持ちで渋々手に取って読んでみたんだけど、、、よかったなあ~。アインクラッド、ALOでの出来事を振り返りつつ伏線回収してるところや、過去の結びつきから興味深い話があったり、このシーンはあれと関係あるのかなぁ~って思いにふけったりと数々の想念があり深い読書ができた。長期シリーズはいいね!短編集だけどこの本は『仮想世界で抱くものは本物なのか』というテーマ性があるように思えた。

はネタバレを含む感想~各編の感想~

1.ザ・デイ・ビフォア

キリトがアスナにプロポーズして新居を紹介することにしたが、目星をつけていたログハウスが消えていた話。
近づいた子犬ちゃんを見つけたアスナが「わぁ!かわいい!」と年頃の少女の反応で接した時に突如空中に浮かぶログハウスに飛ばされてクエストが始まる。このクエストを通じてキリトは結婚について考えを改めることになる。
ただ、アスナのそばにいたいーーーー幼い頃から周囲の人達から距離をとってきたキリトにとって、アスナへのプロポーズが本当の愛情からくるものなのか曖昧模糊だった。そこでクエスト中の他のNPCの言動から気づかされることがあった。大切なものを失ったと思い込んでいるだけで、求めるものは求めようとした瞬間から少しでも手にしていて心に宿しているということ。気持ち次第なんだなぁて思った。
仮想世界であっても、そばにいたいという気持ちは本当の気持ちなんだから、手を取り合って一歩ずつ進んでいこうという前向きになるいい話だった。

2.ザ・デイ・アフター 
もしかしたらユナも思いも残ってる・・・?

ALOにダイブするアスナに唐突におとずれる離脱現象について
戦闘中のほんの数秒の離脱現象がチームの勝敗を左右するんだからそれはそれは早急になんとかしないとってなる。調べていくと・・・

カーディナルは、特異かつ高強度な感情がパターンが入力された時は、そのRAWデータを周辺環境ごとに保存していました。信号を発したプレイヤーのIDはもちろん、時間や場所、保存していたアイテムに至るまで

P111

どうやらプレイヤーが死ぬ間際に抱く、怒り、絶望、恐怖といった負の感情ではなく、それ以外の特別な強い感情が地形やアイテムに紐づいて保存されているというような話。
ソロプレイヤーキリトが入ったギルドで出会い、死んでしまったサチの思いについて話が展開していって懐かしさを覚えつつ感傷に浸ってました・・・アニメの映像がフラッシュバックした。
じゃあユナの感情も残されてる?

劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケールの映画特典小説。ホープフルチャント
描かれるのはノーチラスとユナの死別の物語だ。


リアルでは長年付き合いがある2人はSAOでも行動を共にすることが多く、ユナはいつも最前線でいざという時に足が固まってしまうノーチラスに飴をあげては励ましていた。
とある救出に向かった先の戦闘で、ユナはノーチラスや他のプレイヤーを助けるために自身にモンスターの注意が向くようヘイト値を増加させる歌を歌い、襲われ命を落とす。
今いる持ち場を離れてユナを助けにいきたかったノーチラスだったが、頭を悩ませていた足が固まってしまう現象が起きて、叫びをあげながらユナを襲うモンスターをただ見ていることしかできなかった。
ユナが光りのカケラとなって消える直前に、ノーチラスのもとにいつもユナがもっていた飴玉が詰まった瓶が飛んできて、誰よりも大切なユナの言葉が届いたという話。その時のユナの言葉は悲しみや後悔でもなくて、
ノーチラスを想って伝えた優しさに溢れたものだった・・・それは、特別な強い感情から発せられたものだと換言してもいいんじゃないかと思って
、きっとユナの特別な思いが残っていろだろうと思わずにはいられない。
ただ、SAOのデータを引き継いだアカウントでないと特別な思いは届かないようで、ノーチラス君はALOやってましたっけ?と

虹の橋

ALOにある、天まで聳え立っているんじゃないかという大樹の天辺を目指すお話。途中からは積乱雲によって阻まれていて突破することは大変困難。そういう設定は多くの者の心が躍らずにはいられない話だよなぁ・・・と。
SAOだったら死んだらおしまい。ALOだったら蘇る。死と隣り合わせのSAOの世界で感じた息詰まるようなリアルを再び求めてしまっているだろうかと思案していたキリトにとってきっと待ち焦がれた体験だったのだと思った。

絶剣のユウキ誕生の軌跡 生きる意味

ユウキと姉のランと、VRで出会ったメリダ3人の話。
ここでは生きる意味について触れられていて、生きる意味を見出した場所は現実世界、仮想世界で異なっていても本質的に同じと言えるのか?と悩み、正解を見つける感動的なストーリーだった。仮想世界であっても、地に足をつけて感じる様々な感情は紛れもない自分自身が抱いたものだから"本物"だと落ち着く展開はよかった。
人並みに自由に外出できず、常に閉塞感がつきまとう環境にいる者の繊細な悩みが伝わっていたので結末は起承転結にふさわしい幕引きだったと思った。
なにしろ再びユウキの物語が読めて感慨無量というもの。ユウキが言う"姉ちゃん"も登場するし。
SAOは、これはゲームであって遊びではない、プレイヤーの死が現実の死になると謳っておきながら物語に深く関わる人物が命を落とすことはなかった。そこで第7巻のユウキが登場するマザーズ・ロザリオで死について深く痛感させられた。 今回の短編集のように過去を振り返ることができるのは長期シリーズで出せるラノベの魅力だと思う。


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