
理不尽な孫の手(著/文)シロタカ(イラスト)
〇あらすじ〇
魔法大学に入った目的を果たし、男としての自信を取り戻したルーデウス。
彼はお世話になったアリエル達にお礼と報告をするべく、生徒会室へと赴いた。
そんな彼に対しアリエルは尋ねる、シルフィエットとは今後どうしていくつもりか、と……。
ルーデウスはその問いに戸惑いつつも、ハッキリと答えた。
「シルフィと、結婚します」
新居探しに披露宴の準備、結婚に必要なものを急ピッチで用意していくものの、何をするにも課題だらけで……!?
前世で叶わなかった新婚生活は、予想外の大波乱!? 人生やり直し型転生ファンタジー第十弾ここに開幕!
数年分の時間というのは、ルーデウスにとって踏ん切りがつく十分な長さなのか。
順調だったはずなのにきっかけで過去の気持ちをひきずるのが一番印象的だった。
分からないからもどかしいし、思い出してあれこれ考えてしまうんだよね。
でも、もう1人じゃなくて選択を重ねて周りの仲間や大切な人と生きてかなきゃいけないんだよね。
いいな、過去への憧憬は。
後はネタバレを含む感想~
伝えられる時に告げ、関係を確かなものに
シルフィと結婚します。そう告げたルーデウスの考えに一瞬、短絡的な考えではないのかと思ってしまったが、内心彼が語るように思い出されるのはエリスのこと・・・。伝えたいときに伝えないと離れ離れになってしまうのかもしれない。エリスと別れてから3~4年という時間は彼にとって新たな恋を見つけようと決心するのに十分な時間だったんだろうか。読者視点では通しで読んでればすぐの体感時間でも、物語の世界の彼らにとって3年は長い。なのでルーデウスの結婚宣言をただ自然な流れで受けいれてどんな結婚生活を送っていくのか、読んでいく思いしかなかった。
披露宴の話は和んだ。
積み上げたものが無に帰す
とうとうナナホシが期待していた実験に失敗して爆発してしまった。年単位の時間を費やして実験を繰り返していく中で蓄積されていった、元の世界に戻れないかもしれない不安が自暴自棄に陥るほどにたまってしまった。元の世界に戻りたいとは思わないルーデウスとはちがってナナホシは恋人がいて?大切な家族がいる。
生気を失っているナナホシによりそうルーデウスの仲間達の助けがいい話なんだ。
ナナホシが自殺するかもしれないと推察できたのは、ルーデウスの前世の実体験があったからかもしれないと。貸しのつもりじゃないんだろうけど、この助けが今後ルーデウスに大きく返ってくるんだろうね。
思い出す3人での旅路~ルイジェルドとの再会
ルイジェルドが護衛を勤めてノルンとアイシャがルーデウスのもとにやってきた。
数年ぶりのルーデウスとルイジェルドとの再会は、こみあげるものがあった。少し涙腺が刺激された感じ。
ルーデウス、エリス、ルイジェルドの3人で旅した3年間の旅路を想起させられる。
ルイジェルドのエリスはどうした?の一言があまりに痛切につきささる。
ルーデウスが語ったいきさつを聞いたルイジェルドは、それは戦士の罹る病気だと言う。
そしてルイジェルドの視点だからこそ気づけるエリスがルーデウスをどう思っていたかについての言及。
今さらだっと歯がゆい気持ちになるルーデウスが不憫だ・・・・シルフィと結婚して幸せなはずなのに過去の気持ちをひきずってしまう、踏ん切りがついたはずなのにと、ここのルーデウスの心情に同情してつらい。
無心に剣をふるエリス
ルーデウスの生き方とは対照的なエリスの生活。剣神の教えは、ギレーヌとルイジェルド両方のいいところを含んでいるようだ。ひたすら剣をふる日々。間にぽつりともれる「ルーデウス・・・」の一言が・・・。
龍伸オルステッドにカウンターの一撃で敗れて大切な人が目の前で心臓を刺し貫かれている・・・あのシーン。
目指すはオルステッドの強さの領域。そこで北神流をエリスに教えるオーベールが現れる。
剣術と魔術。あるていど極めた者が戦ったらどっちが勝つんだろうな。
他に味わい深い小説を求める人に
硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。
タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。
少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。