無職転生 異世界行ったら本気だす 11<br><br>ノルンと前世の兄の心境を推し量る
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 11 (MFブックス)Amazon

理不尽な孫の手(著/文)シロタカ(イラスト)
〇あらすじ〇
大学に在籍しながら、シルフィエットとの新婚生活を送るルーデウス。
父・パウロから二人の妹を任された彼は、新たに四人での生活をスタートしたのであった。
しっかり者のアイシャと、年頃の気難しさのあるノルン。真逆の性格の彼女達との生活は、問題の連続だった。
そんな中、父の希望で二人を魔法大学に入学させようとしたルーデウスだったが、妹達はそれぞれ違った希望を持っていて……
「……これが、あの時の兄貴の気持ちか」
妹達が気付かせてくれた、前世の家族への想いとは!?

無職転生の世界で、実際に色んな立ち位置にいることで実感できるもの。それは自ら世界を閉ざしてひきこもっていた前世の自分には気づけなかったもので、ルーデウスが実感して吐露をこぼす数々のシーンはシリーズを通して印象的。無職転生と前世のことを引き合いに出して実感し、推察し、後悔を重ねて、本気で生きると重ね重ね自分に言い聞かせて転生後の人生を刻んでいく。そう思った巻だった。

はネタバレを含む感想

引きこもるノルンを憂い、前世の兄の心境を推し量る

ノルンが初めて目にした兄の姿を思い出す。
5巻だった。父パウロに跨り一方的に殴り続けるルーデウスがノルンが初めて目にした兄の姿だった。
強烈な印象を残し、たいして言葉は交わすことなく離れて~数年後、ゼニス救出のため危険なベガリット大陸にいく父と同行できず、ルーデウスのもとへとアイシャ共に送られたノルン。
どうやらルーデウス兄さんが怖いというよりは嫌いらしい。ルーデウス邸では居心地が悪く寮暮らしを始めたけど、ノルンはことごとく有名で優秀な兄と比べられる。数日ひきこもることになる。
周りは励ましや善意で伝えているつもりでもノルンにとっては劣等感、やるせなさを抱く棘のある言葉の数々なんだよね。
対するルーデウス。ーーーここで引いては、もう戻ってこられないーーー
そう思わせたのは、前世でルーデウスの中の人物がひきこもり始めた時に寄り添ってくれた兄の気持ちを推し量ることができたからだと思う。
前世の自分は、兄の正論や立ち直るきっかけをくれる多くの言葉を無視し続けた。兄は最後には何も言わずに長い時間傍にいてくれた。その時のルーデウスの兄はきっと どうすればいいか分からない 状態だったのかもしれない。ルーデウスはノルンに、ノルンのこと考えているつもりでもノルンのことが分からなくて・・・そしてこんな状況になってもどうすればいいのか分からないと、自分自身にも向けて口にする。
口にしなかったらノルンはルーデウスに近づくことはなかったんだろうと思う。
互いにどうすればいいのか分からない、気持ちの共感が歩み寄るきっかけになったのが印象に残った。
前世の兄が悩みを打ち明けていたら、聞く耳をルーデウスはもったのか、たちなおるきっかけになったのか考えてしまう。

シルフィは身籠り、ルーデウスは父となる

巻が進むにつれ、ルーデウスが背負う責任感が増していく。もう一家の主か。
この世界では学生のうちにできても普通らしい。
ルーデウスは特待生だからね。
大きな動きがなければ、このまま家族の話がずっと続いていくんだろう。
それは平和な日々。平坦な話は、間間に書かれる、そこから何か月か過ぎたの文面でスキップを繰り返し着々と無職転生の世界で人生を刻んでいっている。

選べる立場、選ぶことすらできない立場

ギースから届いたゼニス救出困難の手紙。
久々に現れた人神の助言ではベガリット大陸にいくと後悔するという。肝心の中身は教えてくれない。
魔法大陸からベガリット大陸にいくには最低でも1年はかかるし、いくころには既に事なきを得ているかもしれない。父たちだけに任せろと言ってくれたパウロの言葉を信じるルーデウス。そして今の生活を手放してよいものか。悩めるルーデウスが学校の友人に相談して、みんな思い思いの助言をくれるのはいい話だった。
周りに相談するってのが前世にあったかのか? 匿名でSOSを投げかけたのか?
ここでルーデウスは助けにいく力があるし、ここにいて家族を見守ることができる、選択できる贅沢な立ち位置であることをノルンに気づかされる。相談した相手にノルンも含めるべきだったのだろうと思う。
だってベガリット大陸いる父パウロを一番心配しているのは紛れもないノルンだから。
相談先が多いってのはいつの時代も幸せなことだよね。

番外編ではクリフがノルンに助言するミリス教の教えが哲学だった。

味わい深い作品を求める人に

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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