無職転生 異世界行ったら本気だす 12<br><br>ルーデウスとパウロ
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 12 (MFブックス)Amazon

理不尽な孫の手(著/文)シロタカ(イラスト)
〇あらすじ〇
父パウロと再会したルーデウスは、母を救出する為『転移迷宮』へと乗り込んだ。
シャリーアから持ってきた手記を参考に、迷宮を攻略していくルーデウス達。道中でロキシーを助け、数々の罠も回避し、厄介な魔物を無効化して、最下層に到達する。
全てが順調に進み、母の救出も間近かと思われた。
しかし、最深部で待ち構えていたのは、そんな希望を打ち砕く程の衝撃的な出来事だった!!
「この世界に転生して、変われたと思っていた……」
後悔に苦しむルーデウスを絶望の淵から救った人物とは!? 

転生後の世界で本気で生きていく、そのモットーへの心意気は今までの巻で幾度となく大なり小なり伝わってきた。
窮地に陥って心臓を刺し貫かれても誰かのきまぐれで一命をとりとめたり、道中辛い出来事はあってもルーデウスと近い距離にいる大切な人は誰一人命を落とすことはなかったりと最後には丸く治まってきた。
この巻を読んで、転生後の戦いがつきまとう人生を描いた無職転生が本物の物語だと実感し、前世の自分を救うための物語でもあると思った。
前世では向き合ってこなかった悲しい出来事に目を向けて答えを見つける厚みがある話だった。

はネタバレを含む感想

父達と合流しロキシー先生が窮地に

パウロ達と合流して互いの状況を語り合う。5巻の時以来の再会だうろか。ゼニスを助けた後、一家団欒で再会を喜ぶ宴を開こうと、あってほしい未来を語るところは少ししんみりした。そうなるのか不安がつきまとう。
ロキシー先生が一か月前に迷宮で行方不明となっていた。
ロキシー視点で語られる迷宮の転移ループでの疲弊していく様子と、こみあげる焦燥感、生への執着は息詰まるような展開だった。きっとルーデウスが助けてくれると信じながら、え・・?死なないよね?って念じながら読んでた。
ルーデウスがナナホシから教えてもらった特殊な移動方法で最速で父達と合流し、助けにいかなければロキシー先生は命を落としていた・・・ピンチのヒロインを救うルーデウスが様になっていて、よすぎるタイミングが重なって救えてよかった反動か、再会の感動があっさりだったなぁ。魔族のロキシーは容姿が変わらないけど幼少時から成長したルーデウスをロキシーが気づかないのはいたしかたないのかもしれない。
街に戻ってから2人の微笑ましいシーンがあったので、後になってじわじわと心温まる展開はよかった。

母をめぐり親子喧嘩

ゼニスはボス級のヒュドラの裏のクリスタルの中に閉じ込められていた。6年間探してきてようやく見つけた、母ゼニス。先走ってしまったパウロによって連携が乱れ、援護しようにもなんとヒュドラの鱗は魔術を無効化するという。9本の首があるヒュドラ。首を切っても再生するという恐ろしさ。よかったのは一時撤退を決めて後退の魔法陣が残っていたことだと思う。ボス部屋に入ったら逃げ道がなくなるような展開だったらパーティ全滅だったんだろうか。魔術に依存した戦いは怖いけど剣術と両立できるほど易しい世界じゃない。
あれで母は生きているのかとぼやいたルーデウスに父パウロは激昂する。5巻で父パウロに再会した時、母ゼニスの名を言わず、シルフィの心配をして父に呆れられたのを思い出す。ルーデウスにとってゼニスよりシルフィが心配だったし、それに幼少時のみしか一緒にいないゼニスよりも父パウロのほうに情がわく。
自分もルーデウス寄りの思いで読んでいた。母を助け出すのは義務感によるものが大きい。

ルーデウスの欠点が最悪の結果を招く

ヒュドラに有効な作戦を立てて辛くも順調に一本一本首を切って再生しなくなるようにしていった。残りの首が一本になったところでルーデウスは勝った っと思ってしまった。優位に立っている状況だと認識して勝ったと思った時点で破滅へと向かうレールに乗っていたんだな・・・
ヒュドラの不審な身震いする動き、ルーデウスはその動きを予見眼を使っていたが大きすぎてわからないと心で語る。そう・・・勝ったと思った油断から、大きすぎて分からないという考えに至る思考を割くほどの余裕をもってしまったが故に父パウロの死を招いてしまった。パウロはルーデウスをかばって体が半分に切断されて命を落としてしまった。ルーデウスをかばうとき、父パウロは何と言ったか。
馬鹿野郎!と言ったんだ。
直感で退くべきところを、合理的につめようと考えて一時体をとめてしまったことを馬鹿野郎と言っているのか、分からないけど。2巻でギレーヌが思っていたルーデウスの欠点が最悪の結果につながってしまったと思う。

合理性を求めるがあまり、考えすぎるのだ。合理的な動きをしている基礎を、さらに合理的にしようとして、不合理な結果に終わっている。

無職転生2巻 195P ギレーヌ視点

いつも通り遠距離攻撃できず、近接戦闘をしなければならず不慣れな部分もあったからルーデウスにとっては辛い状況だった。接近戦に苦手意識を持っていることは自身が言っていたし。毎日剣のトレーニングをしているとはいっても剣戟をおこなう相手はいなくソロ活動。
2巻でエリスとギレーヌの稽古で訓戒としていた、ーーー練習は本番のように、本番は練習のようにーーー
を守っていたか分からない。
勝利はしたがパウロは死に、ルーデウスは左手を失い、救ったゼニスは・・・

父の死から、前世でしたいこと。無職転生そのものが彼にとっての

前世で両親が死んでも悲しむことなく目先の自分のことを考えていたという。
生前の両親は自分を心配していたんだろうか考えをめぐらすルーデウスの心境と無職転生の世界で父を思う心境。ここのあたりがじーーんとくるものがあって、次々と文となって紡がれるルーデウスの吐露は痛哭だった。

俺は子供じゃないのに、パウロは父親だったのだ。

195P

前世の記憶をもったまま転生してるから父として見れない時もあったけど、もうルーデウスには本当の父親に映っている。
時にぶつかることはあっても息子に最後まで愛情を注いでくれたパウロだけに悲劇だ・・・。

異世界いったら本気だす、前世に未練などないとだいぶ前に確か言っていたと思う。でもここで前世の両親が顔が見たいと言ったんだ。前世のしたいことを挙げるのは初めてなんじゃないだろうか。どこか読み落としているかもしれないけど。

思ったのは無職転生が前世の自分を救うための物語であること。
注がれる愛情、友だち、師弟関係、背中を預けられる仲間、恋、喪失感、冒険者稼業で生計を立てるビジネスライフ、結婚、兄妹というもの…等変わっていく立場で経験して、こういうものなんだなぁとしみじみ実感してきた。そして前巻では前世の兄の気持ちを推し量るようになり、本巻では前世の両親を推し量ることにとどまらず両親の顔が見たいと、前世でやりたいことを吐露するようになった。この流れから無職転生という世界が34歳ひきこもりニートの更生プログラムに思えてきた。
ナナホシはリアルワールドに帰るための魔法陣の研究を重ねてとうとうペットボトルの召喚に成功したしゆくゆくは本当に帰れるかもしれない。ルーデウスがおじいちゃんになる頃には帰るための方法が確立されていて、
無職転生で味わった人生観を胸に地球に戻ってから34歳更生の物語が幕を開けるかもしれない・・・って思ったり。

悲しみは分かち合えると

結果論で言えば、魔法大陸に残っていればロキシーが死ぬし、ベガリット大陸に行けばパウロが死ぬ。
前巻で悩んだ二択どちらを選ぼうとも後悔が残ることとなった。人神の助言では魔法大陸に残り、リニアかプルセナで関係をもてということだった。
生気を失っているルーデウスにロキシーは辛さがわかると言う。崇め奉るロキシー先生にすら軽々しく共感なんてしないでもらいたいと叫ぶルーデウスの心境は筆舌に尽くしがたいと思った。
ロキシーはめげずに冒険者時代に冒険者としてのイロハを教えてくれた仲間が自分をかばって死んでしまったことを伝える。ブエナ村で温かく接してくれたゼニスやパウロはロキシーにとって第二の家族であることを伝える。きっと悲しみは分かち合えるとロキシーは後ろからルーデウスを抱きしめる。
生きている証である鼓動を聞いた時にルーデウスが抱いた安心感は、枯れた心に水やりをして潤いをもたらすかのよう。

ルーデウスは、作り話で生前の自分と今までの自分をフィクションとしてロキシーに語り、どうすればいいか相談する。細かく言っているので今のルーデウスそのもののお話。ロキシーは気づいているのか分からないけど触れずに、戻れるなら両親に墓参りすると言い、戻れないと知れば今の家族を大切にして生きていくしかないと言う。ルーデウスは月並みの言葉だと思ったけど心がすっきりしたようだ。
確かにありきたりな言葉だったのかもしれない。だけどここでは助言の内容よりも、その助言を誰が言ったのかがポイントだったんだと思う。崇めるロキシーが言ってくれたからこそルーデウスに芯に響いたんだ、きっと。


味わい深い作品を求める人に知ってほしい作品

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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