無職転生 異世界行ったら本気だす 15<br><br>エリスの登場に万感胸にせまる
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 15 (MFブックス)Amazon

理不尽な孫の手(著/文)シロタカ(イラスト
〇あらすじ〇
未来からタイムスリップしてきたという年老いた自分に遭遇したルーデウス。彼は未来の自分が歩んだ、大切な人をすべて失ってしまうルートを回避するため、ヒトガミの提案で龍神オルステッドを倒すことに。
そんな中、老人が残した助言を信じ五年前に別れたエリスに手紙を送ることにしたルーデウスは、彼女にとある案を投げかける。
『もし、生きて帰ってこれたら、話の続きをしましょう』
物語が大きく動き出す中、ルーデウスとエリスは赤い糸に導かれ再び交差し始めるのか!?

こみあげる万感の思いと、膨れ上がっていく恐怖感この2つで心揺さぶられる物語だった。

はネタバレを含む感想

闇落ちしたルーデウスの日記

本巻、技巧を凝らした装丁が魅力的。前巻で未来から過去転移でやってきたルーデウスおじいちゃんがもってきたもの。それは、人神の頼み事通りに実行した場合の世界線の日記帳だった。
大切な家族がいなくなり人神の復讐に燃える闇落ちした男の日記だった。使い込まれた年季の入った日記帳を再現していてグラフィックデザイナーさんの力の入れようが伝わってきた。楽しいなぁ。
家族はいったん出て行ってもアイシャは戻ってきてくれて世話を焼いてくれるという未来があって、アイシャの優しさにただただ頭を垂れる思いだった。

龍神との戦いは避けられなかった

ルーデウスの子孫はオルステッドに与して人神を倒す運命にあるという。人神を脅かす存在は早々に摘んでおかなければならないと、人神は日記帳の通りにルーデウスの家族を消していく。家族を守るには龍神を殺すしかなく、戦いは避けられない。
魔道鎧、魔力を流し込み続ければ岩弾丸を連射できるガトリング砲と発想が面白かった。ラプラスなみの魔力をもつルーデウスにしかできない戦術。
ルーデウスおじいちゃんが人神の倒すために作った魔道鎧が、今では人神の助言で作られているんだから皮肉なもんだよね。
入念に準備して舞台を整えて挑んだオルステッドとの戦いは、オルステッドへの恐怖がどんどん増長されていくようだった。規格外の力を内包している俊敏に動くオルステッドはペルギウスが敵に回してはいけないというほど化け物だった。最後にははいつくばって家族だけは手にかけないでくれと懇願するルーデウスは父親だった。

エリスの登場に万感こみあげる

登場するシーンが口絵にもなっていてすばらしい。
ルーデウスとつり合いがとれるよう剣の聖地で修行してきたエリスの登場には万感の思いがこみあげてきた。
オルステッドとの剣戟では張り詰めた空気感があって戦いも見物だった。
かつて高みの存在だったオルステッドを剣の修行を得て相対した時、自分の力量では届かないと判断するのは英断だった。剣王の称号をかけて戦った時も必要以上の力を使わず倒したように。どんどんエリスの成長したしころを見せてほしい。
ルーデウスの利用価値を見出したオルステッドは、人神を裏切り龍神のもとについて共に人神と戦うのであれば人神から家族を守り、切り落としたルーデウスの腕を治療をするという。
承諾するルーデウスの判断に共感した。家族が守られるのであれば悪魔にでも魂をうってやるといわんばかりの気概が伝わってきた。
軍門に下って打ち合わせした時の社長オルステッドは最初に出会った時と変わらず人を気遣う声かけがあり親切な人物であると再度思った。数日前死闘していたのが嘘かのような二人の空気感。

社長からラプラスや転生について説明があった時、ルーデウスの転生に意味があったことに気づいたので長編見越してプロットを練ってつくりあげるファンタジーは奥深いと思った。2巻あたりで見た赤い玉についてもナナホシが指摘していたし、社長の考察とナナホシの考察が今後掘り下げられていくと思うと楽しみ。

最後に、ルーデウスとエリスが結婚できてよかった。数日間互いに考えすぎて会話の突破口が見出せなかったけどルーデウスおじいちゃんの日記のようにならず、エリスが報われてなにより。

味わい深い作品を求める人に知ってほしい作品

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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