無職転生 異世界行ったら本気だす 19<br><br>数ある教え子の1人でも、パックスにとってはたった一人の先生
無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 19 (MFブックス)Amazon

理不尽な孫の手(著/文)シロタカ(イラスト)
〇あらすじ〇
シーローン王国から、ザノバのもとに帰郷を求める旨の手紙が届けられた。
王国でクーデターが起こり、低下してしまった兵力を補うために国防力が必要ということらしい。
手紙の内容がヒトガミの罠だと悟ったルーデウス。
ザノバをみすみす帰国させるわけにもいかないと考えた彼は、ロキシーとともにザノバに同行する。
だが、シーローン王国で彼らを待ち受けていたのは、七大列強の第五位である死神ランドルフ・マリーアンだった。
誰が敵か味方か分からぬ状況で、ルーデウスはヒトガミの企みを潰すことができるのか!?

人の支え、支えられの話に焦点を当てた切なさと温かさが混じる物語だった。理詰めで動いたり、感情で動いたりと行動の裏にある考えは近くにいる人でも分からない。対話に限らず表情やしぐさで相手を忖度して、誤った選択をして自分自身が後悔しないように努めようと思える物語だった。

はネタバレを含む感想

王国からの勅令にザノバに迷いなし

ザノバのまわりには師匠のルーデウスや、友人のクリフ、ナナホシ、弟子のジュリといった数々の仲間や理解者がいて、好きな人形の研究やクリフとの共同研究、魔道鎧の製作・改良と忙しくも楽しく充実した日々がずっと続けばいいと思っていたザノバの気持ちに共感する。シーローン王国では首切り王子として周りから距離を置かれてきたザノバ。その時は小言を言う人という生き物が嫌いであったが魔法大学での日々で人への見方が変わりりつつあることが発せられた言葉ではなく、表情やしぐさからうかがえてきた。
弟パックスが王国で反乱を起こして王を殺め、王に君臨して低下した軍事力を補うために帰国の命令をザノバに下した。周りが反対する中、なぜザノバの決断は早かったのか。今まで首切り王子として呼ばれるほどに人を殺めてしまったザノバが生かされてきたのは、非常時にシーローン王国の力となってもらうためであることが分かって反対派としてはぐうの音も出ない正論で確かにこれ以上ひきとめる言葉が見つからないと思った。
たとえ捨て駒にされる可能性があっても1人の王子として、母国のために戦力になれる怪力の神子として早い決断を下したザノバは勇ましく映った。

肉親の弟が気が気でないザノバ

戦に勝利し落ち着いたと思ったら第二のクーデターが起きてパックス王子が籠城することになるとは。
他国との戦争に勝利して勤めを果たしたのだから、王国内の問題は気にせず魔法大学に帰ろうという流れだったがザノバは弟のもとへいくという。再び周囲は理詰めで反対意見を言う。だけど最後には肉親の弟だからと、助けにいくザノバにこれ以上周囲は言えなくなるよ。肉親や家族・・・と理詰めを上回る感情から引き起こされる行動を誰がとめられるんだろう。

数ある教え子の1人でも、パックスにとってはたった一人の先生

王になってもパックスは、王だと認めない反乱軍と認めないわけではないけど他国に人質として留学していたパックスが帰国するなりクーデターを起こして無理やり王になったことをよく思わない人々に囲まれて後悔を繰り返すことになった。他国に行かされてから一念発起して研鑽を積んできた物語は本巻の後編にも描かれている。本巻の前半と後半でパックスへの印象が180度変わる話で、周りに理解してもらい、認められることがいかに難しいか伝わってきた。今回の場合は登場シーンから印象悪くスタートしてしまったから第一印象がマイナスで、信頼を回復するのに時間がかかるけど今回はあまりに時間がなかった。死神に願いを託しザノバとルーデウスの前で自殺したことによりオルステッドの計画が狂ってしまった。ザノバは王族としての名を捨ててザノバ・シーローンではなくザノバとして生きていくことを決めて魔法大学に帰ることができるいい話なのに。

昔、パックスが努力して中級魔術を習得してロキシーに見てもらった時、彼女はため息をついたという。
それに大いに傷ついたパックスは今回再会したロキシーに叫んでいた。
確かにだいぶ前の巻でロキシーがシーローン王国のパックスの家庭教師に就いていた時、中々習得できないパックスと教えたこと以上のことがすぐできたルーデウスを比較して、精力的に指導してこなかったロキシーの様子があった。ロキシーにとっては数ある教え子の1人でも、パックスにとってはロキシーがたった一人の先生であることをロキシーは見落としていたと思う。
自分のための努力といっても努力する必要性や意味を見出せない子どもは、認められることが次の努力のやる気につながる場合があると思う。認められない場合パックスのようにやる気をなくすか、見返してやろうとさらに躍起になるかの二手に分かれるんだろうか。
過去を省みて、自殺してしまったパックスにもう言葉をかけることができず落ち込んでいるロキシーをルーデウスが支える。12巻では落ち込んでいるルーデウスをロキシーが支えた。どっちの場合も挿絵がありロキシーとルーデウスの支え、支えられを印象付けるシーンだった。



味わい深い作品を求める人に知ってほしい作品

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。



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