
ナフセ(著/文)吟(イラスト)わいっしゅ(世界観イラスト)cell(メカニックデザイン)
〇あらすじ〇
クズスハラ街遺跡の地下街に巣食う強敵ヤラタサソリの殲滅ミッション――クガマヤマ都市周辺のハンター達を総動員したモンスターの掃討作戦はアキラ達の活躍によって終結に向かいつつあった。
だがそれは、これからアキラを襲う数々の困難の幕開けに過ぎなかった!
地下街で遭遇した所属不明の遺物強奪者の策略により、アキラはレイナを人質に取られたシオリと望まぬ決闘を強いられる。
さらに、予期せぬ状況から敵対するアキラとカツヤを見つめる“旧世界の亡霊”達。果たしてアルファの、そしてもう一人の目的とは――?
WEB連載版より大幅加筆。書き下ろし短編「ホットサンド販売計画」も収録!!
スラム街での過酷な日々で凝り固まったアキラの根深い精神は想像以上だった。ハンター同士の交流と徒党のみんなとの関わりでアキラの精神の変容の兆しが見えていると思うと、今後アキラの中で人のために悩み天秤にかけたり、誰かの幸せのために少し不器用でも尽力したりすることがあったら辛い生い立ちと過酷なハンター稼業から報われてほしいと願う。旧世界の謎を追いながらハンター稼業中心の物語でも面白そうだからどう転んでも先行きは楽しみということだ。たとえ、目を背けたくなる現実が待ちかまえていようとも。
後はネタバレを含む感想~
対人戦闘の強者との死闘
ハンターは対モンスター用のノウハウをもっているが狡猾で強かな人との対人戦闘の経験に乏しいのは職業柄そうだよなぁと思う次第で、サイボーグで操作する表情筋で作られた嘘偽りない相手の表情をしながら怪しい動きなんて感じさせない視線誘導してからの死角からのコメカミへの銃弾を、素で警戒を緩めたアキラがかわして瞬時に反撃するところがなんとも面白い。相手も自分自身も驚いていて、戦況を俯瞰できているのは強化服を操作するアルファのみ。嘘を見抜くアルファですらサイボーグの笑顔に隠れた思惑は読み取れなかった。旧接続領域者でなければどんな凄腕ハンターもやられちゃうんじゃないのかなって。遺物強奪犯ヤジマとの戦闘は、アキラの表情と行動の不一致の数々で相手がどんどんアキラの評価を爆上げして最終的に"都市のエージェント"思い込むのは痛快だった。自分自身も騙して、ヤジマも騙して、アキラの強化服を操作してヤジマの戦闘力を削ぎ落すアルファはすごかった。
だが、さらなる死闘は続くのだった。ヤジマの死後報復プログラムによって遺物強奪犯のケインとネリアに命を狙われるアキラは人気のない廃墟で戦うことになり今まで読んできて一番死に近づいたシーンだったと思う。
相手の位置がわかっていても見えない相手を遠くから光の刃で壁ごと一刀両断する遺物兵器の恐ろしさ。
ライトセーバーのような光の剣を後ろに下がるのではなく、横に回避するアキラ。後ろにさがった相手を刃先を伸ばして斬殺する狙いが失敗することでごく一部の限られた者しか知らない遺物兵器に心得があることに予想外な反応を示すネリア。アルファとの接続が一時期きれるくらい激戦だった様相は大変迫力があり、緊迫感と戦況が想像できる丁寧な描写で魅力だった。
アキラの世界の見方、人の見方
シェリルはアキラにぞっこんだ。シェリルは、アキラと2人で自分が理想とする関係を妄想して悦に浸るシーンが見られるようになった。シェリルのアピールは何もアキラに伝わらないのでかわいそうなんだけど、シェリルの心の安寧は満たされているようなのでよかった。何かのきっかけでアキラのシェリルへの見方が変わるのなら、その何かのきっかけを作ろうというシェリルの努力は実る可能性がある限り有用だと思えるから。
対してアキラはシェリルは敵ではないという枠組みの中に入れている。アキラは人を敵か、敵ではないかの二分類で分けていて、例外は生きている中で心動かされたアルフア、エレナ、サラ、シズカだという。
シェリルが例外の一味になれたらいいな。
アキラが人を敵か否か見るようになった背景は、過去の過酷なスラム街での生活で他者から否応なく"お前が悪い"と否定され続けてきたからだという振り返りが印象的だった。相手に非がある場合でも、自分に非があるという自罰的な考えが根づいている。自分はどうせ同情されはしない…そう思ってのところで、
ユミナがアキラを責めているカツヤをぶん殴るのはアキラにとって衝撃で、そこから一考する大きなきっかけになってよかった。後々になって他の人の善行が閉じこもっていた本人に響き少しずつ考えを改めていく展開はいいな。