
古宮 九時(著/文)森沢 晴行(イラスト)
〇あらすじ〇
現代日本から突如異世界に迷い込んでしまった女子大生の水瀬雫。剣と魔法が常識の世界の辺境に降り立ってしまい途方に暮れる彼女だったが、魔法文字を研究する風変わりな魔法士の青年・エリクと偶然出会う。
「――お願いします、私を助けてください」
「いいよ。でも代わりに一つお願いがある。
僕に、君の国の文字を教えてくれ」
日本に帰還する術を探すため、魔法大国ファルサスを目指す旅に出る二人。その旅路は、不条理で不可思議な謎に満ちていて。――そうして、運命は回りだした。
これは、言葉にまつわる物語。二人の旅立ちによって胎動をはじめたばかりの、世界の希望と変革の物語。
どうか、この旅路の続きを読ませてくださいと願うばかりの読後感だった。
雫のこの世界におけるステータスが分かると、これからうまくやっていけるの?!って思うけど言葉を重要な要素として物語に組み込んで語られる二人の旅路は、世界の興味深い発見の数々で満ちていてどうか旅の行く末を見届けたい!と思える。
後はネタバレを含む感想~
雫は地に足をつけて自分を見つけていく
1冊を通して、ふわふわして確たる自分をもっていなかった雫が旅路の中で悩みながら気持ちに向き合い、
この世界における自分の立ち位置と自分がもっている力を客観的にみて意思決定して、転生後の世界で生きる自分をつくっている過程が興味深かった。最後の方の禁呪で出てきた負の敵に世界の異物として見られ排除されそうになったとき、異世界からきたけど、自分は、ここにいる!という叫びは過去の悩みが吹っ切れて自分をしっかりもっていると思える印象的なシーンだった。
メアに声をかける時、自分が無力であると自覚していてエリクに迷惑をかけるかもしれないけど、相手に手を差し伸べることができる、助けたいと声をかけることができることを大切にして、助けたい気持ちから行動できたところはこの世界の自分と対峙した上で本来の自分らしさが表れたしんみりするお話だった。
かつてはエリクから剣を受け取らなかったけど、ターキスからの剣を受け取って覚悟を決めたのも自分だ。
転生した地にだんだんと足をつけていって痛みを伴うことがあろうと前へと踏み出す一歩が次第に大きくなるような雫の成長が面白かった。
転生後の世界でも夏休みのレポートをする雫さん偉すぎる。
レポートの内容はどこかの哲学なんだろうか。
「書かれた言葉は、読む人にいつでも同じものしか返さないし、誤読された時は書き手の助けが必要になる。だから書かれた言葉っていうのは、人が語る、魂を持った言葉の影にしか過ぎない、という話です」
P263
書いた言葉を読む読み手によって受ける印象が変わるのは物語でも同じだなぁと思った。
エリクと雫のこの世界と地球の言語の指摘の数々と言葉についての考察は一冊を通じてどれも興味深い。
言葉がキーとなって旅に影響するお話は新鮮だった。
言葉に熱心で雫をよくみてくれるエリク
人に興味がなく、異世界からきた雫という奇異な存在と過去の謎の出来事への興味から雫と旅をしてくれるエリクの行動力ってなかなかだと思うよね。図書館司書という職を辞して同行してくれるんだもの興味あるものへの探求心は凄まじく好きなことに打ち込めるエリクは表情に出ていなさそうだけど内心わくわくしていそうだ。
人に興味がない、故に雫という名前にきれいだねって素直な印象を言って雫を赤面させてしまうエリクさん。
2人の会話はだんだんとコミカルな言葉の応酬が出てくるのでと面白いです。不安だらけな雫だけどエリクの前ではだんだんと気軽にお話ができて傍にいてくれる安心感が伝わってくるしエリクがかけがえのない存在となっていく。負の敵に望みをきかれた時、異世界に帰りたいという前にエリクに伝えたいことがあると思い至ったところも然り。エリクはさっぱりした態度のように見えて雫をよくみて気遣って過度に踏み込まずに独特な距離感を保っているようで、傍にいると安心できるような頼もしい存在だなぁって。
雫が行方不明になっても冷静に理性的に奔走して救ってくれる。人見知りにとって接しやすいタイプだと思う。
エリクは気立てがいい!