筺底のエルピス -絶滅前線-<br><br>面白い!は伝播する

オキシ タケヒコ(著/文)toi8(イラスト)
〇あらすじ〇
殺戮因果連鎖憑依体――。それは古より「鬼」や「悪魔」と呼ばれてきた異界の絶滅プログラム。見鬼の改造眼球と、時を止める<<停時フィールド>>を駆使してその脅威に立ち向かう<<門部>>の封伐員、百刈圭と乾叶は、正体不明の<<白鬼>>と遭遇する。叶の親友に憑依したその鬼を巡って組織は揺れ、バチカンまでもが動き出す。人類絶滅を防がんとする秘密結社同士の衝突は、果たしていかなる決着を迎え、空虚と傷を心に抱えた二人は、そこにどんな答えを見出すのか。人類の存亡をかけた、影なる戦士たちの一大叙事詩、堂々たる開幕の第一巻。

面白さは2巻以降増長されていくんだと、タイムラインに流れるエルピス感想を読んでいて思った。楽しさに加えて相応の衝撃を受けるのか期待感があるけど自分はエルピスに没頭できるよう、思案をはじいて、あらすじも読まず空っぽな状態でまとまった時間をとって一気読みしたいと思った。
っていうことで筺底のエルピス一気読みだった!面白かった。
時を止めるという興味深い技<<停時フィールド>>を使っての戦い方が幅広くて、停時フィールドと物理法則を絡めて繰り出す技の数々に魅せられる。
絶望に抗う戦いに赴く各々の人物が抱えている悲痛な思いと戦う理由を知ったとき、もう没頭して読んでた。戦いの先で何を見つけるのか追っていきたい。
封伐員になった時に最初に知る人類の未来を思うと、友人同士のやりとりや、先輩と後輩のやりとりが微笑ましく映るんだ。悲壮感を覚えることが多いと思うから温かなやりとりの1つ1つが尊いと思える。

面白い!は伝播する

ラノベ読みのタイムラインに流れるエルピス熱がじわじわと、そして爆発的に広がった様相がすごかった。
元々筺底のエルピスという作品を知っていて興味があったので、この大きな波にのった。買うなら今だ!と。
1人の熱烈なファンが投稿した「筺底のエルピス」を読んでくれ……!のパワポを添えたツーイトは次々と拡散され、閲覧数きっと10万人をこえて、パワポまで確認したのは万にいったと思うので面白いエルピスを広めたい!という方々のエルピス熱が凄まじかった。

本屋になかったのでオンライン書店に注文してメーカーから入荷されて届いた。
注文した当時、書籍横断検索システムで筺底のエルピスを検索すると多くが品切れでメーカーからの入荷待ち状態となっていたので面白いの声が響いた結果だと思った。きっと。
そしてなんと7月10日に著者のオキシタケヒコ先生が続刊を執筆すると発信するにまで至ったので、先生を突き動かすほどの一連の流れに感動を覚えた。
ああ、面白い!は伝播するんだなって実感した。

少しネタバレありの感想の前に、後日まとめた「筺底のエルピス」魅力の紹介です↓

はネタバレを含む感想

停時フィールドの使いどころと共同戦線

封伐員が使用する停時フィールドは、共通して時を止めるという特徴があるけど一人一人現象が異なっていて見物だった。
空間に自分を包んだり、敵を包んだりする漆黒の箱を顕現させて包み込んだ空間の時の流れをとめる停時フィールドには4つの制限項目があるということで。

大きさと形状
展開有効距離
遠隔固定機能
展開持続時間

あと共通する不変の制限として
停時フィールドはひとりにひとつ
停時フィールドは、二重に存在できない とある。

自分がもっている停時フィールドの制限項目を理解した上でどう扱っていくのかが感心するばかりでした。
特に門部とは異なる同じく鬼狩りをする組織「ゲオルギウス会」のワイデンライヒが使った物理法則と絡めた停時フィールドの扱いが印象的。特性を生かしたこんな使い方があるなんて!って驚きだった。
ワイデンライヒの停時フィールドは、自分自身を包むような形でしか停時フィールドを張ることができないが、
停時フィールド遠隔固定ポイントを自在に伸ばすことができる。

眼球のコンパスを読みながら彼が伸ばした"手"は、千キロ以上も南方にある海洋底地殻を掴み、そこに自らを包んだ停時フィールドを一瞬だけ『固定』した。

P198

・・・え?ってなってから次のページから地球は球体であり、そして自転している。回転半径と緯度の違いから~という説明が始まり敵の技の仕組みを説明しているシーンで感心してた。ほへ~って感じ。

長く伸ばした手で一瞬掴んだ、はるか南方の"より大きな角運動量"を瞬時に得て、ワイデンライヒを包んだ停時フィールドは、地球の自転方向…東へと超高速で移動する。

P199

面白い・・・・日本の封伐員の停時フィールドの一長一短も魅力的だったけどワイデンライヒの停時フィールドの印象は強烈だったわ。停時フィールドの不変の制限を破る3つの停止フィールドをもつ化け物もいたけど。

白鬼に憑依された朋之浦結の身柄を引き取るためにゲオルギウスの面々は日本の封伐員と敵対していたけど、百刈圭の両親を殺し、妹を死体より死体に見えるようにかえた因縁の仇敵『荻窪童子』大赤鬼が現れた時、
百刈圭がゲオルギウスの鬼狩りたち(祓魔師)に苦笑いを浮かべて「ご協力お願いしますよ。悪い冗談みたいですけどね」って言って共同戦線をはる展開はなんとも痛快だった。

殺戮因果連鎖憑依体と確定している世界で抗う

殺戮因果連鎖憑依体という鬼や悪魔と呼ばれている絶滅プログラムは、憑依した人間の殺意を焚きつけて殺すほど、殺されるほど鬼の支配力が高まる上に急激に強くなっていく。憑依した人間が殺された場合、鬼は一層強くなって殺した人間に憑依していくという繰り返しなので早期に発見して早い段階で駆除できるよう全国に監視員が配置されているよう。
鬼を殺す方法は主に3つ。

  1. 憑依された人間が自ら命を絶つ
    鬼の憑依先が自殺した人となるので実際は鬼を殺したことと同義となる。ただ、育ちすぎた鬼は因果の線をたどって自殺するように仕向けた人間や、鬼を標的にしている人間に憑依してしまうので成長していない鬼に有効
  2. 封伐員が鬼が憑依した人間を医学的に死の状態にして、鬼に憑依された時自殺する。
    鬼が憑依した人間に注射で中枢神経毒を注入し医学的に死の状態にして、注射した封伐員に鬼を憑依させる。鬼から解放された人間は救命班による解毒と蘇生で意識を取り戻せる。
    鬼に憑依された封伐員は、封伐員に与えられた鬼を可視化できる改造眼球<<天眼>>の機能によって脳に注入される毒によって自決して鬼の消滅を確認後、救命班から毒の中和と心肺蘇生をうけることで蘇生する。
    ただ、1と同じように育ちすぎた鬼は・・・
  3. 人類が絶滅した未来に宿主をとばす
    世界に3つある1万年後の人間がいない未来に宿主ごと送る鬼落としの門をくぐることで、殺す対象がいないことから殺戮因果連鎖憑依体は役目を終えて自壊する。そのあと絶滅した世界を少しお散歩して帰ってくればいい。

門をくぐって1万年後の世界にきたとき、門から現在の時間と地球人類の滅亡から何年経ったか音声案内が流れるので、引き算をして元の世界があと何年で滅亡するのか知ることになる。
126年・・・門をくぐった当時の世界線だとそれだけ経つと滅亡するらしい。ただ後半の戦闘後には、126年からのびたので人類存続をのばせるかもしれないけど強力な鬼や黒鬼が出れば人類滅亡が近くなるかもしれない。
絶滅確定の世界であることを封伐員は最初に知ることになる。
正規軍人顔負けの鍛錬を積んで鬼を狩るべく封伐員になった者に突き刺さる、絶滅が確定している世界であるという事実。
秘匿にしたいんだろうけど、鬼落としの門をくぐることになるなら隠しきれないよなぁって。
門部は、平安の時代から一貫して鬼狩りを続けてきた。
かつての封伐員が何を思い、殉職か任務を終えてきたんだろう。
百刈圭と乾叶は、共に鬼に両親を殺された。
百刈は、意識がとぎれた死体に近い妹の燈を元には戻せないが門部にいけば意識は取り戻せて、課せられた役目をこなせれば妹と一緒にいられることを封伐員の阿黍に言われ、封伐員となった。
復讐を終えた後に、殺した鬼は自分の両親を殺めたことなんて覚えてないだろうけど、仇をうてた達成感は少しはあった。続いて空虚さが残ってしまった。だけど今後のことに迷うことなく妹の燈のためこれからも戦う。
乾叶は、ダンプカーでつっこんで両親を殺した鬼が憑依したチンピラを殴り続けた。とどめをさすところで手首を握られ
"もういい。君がすることじゃない"と百刈圭に言われた。百刈から家族の救出に間に合わなかったことを謝罪され、百刈の言葉をうけて封伐員を目指し、封伐員となった。大切な親友との日常を守るためこれからも戦う。

目的は同じでも戦う理由は違う。ただ仕事で狩るのではなく、何かのために戦う人達の生き様はかっこいいなぁ。守るべき日常のため、絶滅が確定している世界でも今ある娯楽を楽しむためでもいいじゃないですか。
狩った後にみんなでラーメンを食べるでもいいじゃないですか。
命をかけて戦う者達に安らぎを感じる一時がたくさんあってほしいと思う。

最後に、異星知性体として門部を束ねる託宣の巫女となった燈を妹だけど妹としてみていられなかった百刈にガツンと気づかせた乾叶さんいい人すぎる。後輩がずっと先輩を見てきた。気づき、気づかされ。とてもいいコンビになりそう。

「あのとき燈さん、私にいろいろ説明してくれてたんですけど、百刈さんが顔を背けたとき、ちょっと黙っちゃったの気づいてました?目を背けてたから見えなかったでしょうけど、ずっごく寂しそうな顔してたんですよ。唇噛んで」

P283

確かに鬼落としの門の説明を燈が叶にするシーン、百刈が顔を背けた後の燈の会話の最初が「・・・・」から始まってる・・・。
百刈圭が妹に向き合うことができてよかった。

味わい深い作品を求める人に知ってほしい作品

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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