烙印の紋章 Ⅱ 陰謀の都を竜は駆ける 感想

Amazon  BOOK☆WALKER

杉原 智則(著) ●3(イラスト)
〇あらすじ〇
初陣で勝利を飾り帝都へ凱旋したオルバ。都では皇帝の専横が目立ちはじめていた。反皇帝派の不穏な噂を耳にしたオルバは、真相を探るため建国祭の大剣闘大会に出場することになる。反皇室派のほかにも、ガーベラからの使者ノウェ、ビリーナに敵意を燃やす皇太子の義妹イネーリ、オルバを操ろうとするフェドムなど、帝都は様々な思惑の坩堝と化す。そんな中、オルバは皇太子と剣闘士、二つの役割の間で揺れ動く。一方、ビリーナはオルバへの複雑な想いと、異国の姫という立場の間で思い悩む。はたして二人の関係と帝都を舞台にした政争の行きつく先は-。

ネタバレを含む感想

本格派戦記を描くベテラン作家、杉原先生

剣闘士オルバであり、すり替わった皇子ギル・メフィウスでもある2つの顔をあわせもつ男。
命さえ自由ない奴隷の剣闘士の立場と、己の采配1つで組織を動かせる最上位の立場に立っている皇子が抱える苦心はいかほどか。杉原先生の最新作、叛逆せよ~もそうだけど周りからの棘、心配する声、慮る声をあびて自問するシーンは深く印象に残る。筆がのっている。
また、少ししか登場しない登場人物についての描写も、その者が背負ってきた人生を雄々しく伝えてくる魅力。
()の人物の心の声と3人称による凄みのある筆致で質実剛健な物語を描くベテラン作家の杉原先生さすがですと。
読んでいた自分は萌え要素とか廃した本格的な物語が好きなんだなと実感した。萌えといっても直接的に表現するのではなくて間接的にとか雰囲気で伝えてくれるのが好きかもしれない。たとえば本当にすごい小説って端的に『美少女』と表現しないと思うんですよね。
美少女=固定の理想像 を想像する読者がいるかもしれない。だけど文中でその者の麗しさを巧みに表現することで読者の想像内で自然と見た目麗しい女性を浮かび上がらせているとしたらすごいと思うんですよね。
と、
脱線してしまっているがビリーナ姫とオルバの進展といえば、彼女は剣闘士のオルバを友人と思っていて、皇子のオルバの方は子どもだけど時に智謀をめぐらせて行動力がある人のような認識。

おれは、だれだと問う


パーティ会場でビリーナが、ダンスで雑にリードして彼女を辱めようとするイリーナの仲間を最後に蹴飛ばすところはさすが男勝りな姫と思った。そこからイリーナの思惑通りのようになって、誰もビリーナにダンスのお誘いをしてくれなくて俯く彼女に、「姫」と剣闘士オルバが手を差し伸べるところは、よかった。爽快感というか上手い展開だなと。ビリーナが感謝を言い、後に皇子についてオルバ=皇子に相談して剣闘士オルバの方から、自分自身は幼く、相手を推し量れるわけではないので言葉にしなければしっかり伝わらないと言う。
そこから本巻で一番印象的なシーン。
剣闘大会に近衛兵のオルバが参加を表明したことに対してビリーナが皇子にオルバの命を犠牲に祭りの盛り上げに一役買うのかと問い詰め、オルバに理由を問われ、オルバは友人ですというビリーナに、オルバがせせら笑いしてから怒鳴るところ。奴隷に理解を示すところを嫌い、ビリーナにオルバを友人などと呼ぶなというところが共感できるところで辛いところでもある。

(おれは誰だ)
~略~
(剣闘士としては、姫と友人になど釣り合わないと思い、)
(奴隷としては、姫が奴隷の境遇を知ることを言うのに耐えきれず)
(皇子としては、目的を果たすためなら、オルバひとりの犠牲など構えはしないとさえ思っている)
「おれは、誰だ」

P175

数日の命と、それをつなぎとめるための食糧を手に入れるため命懸けの奴隷の剣闘士を勤めてきたオルバと、血と腐肉にまみれたメフィウスの娯楽のために命をもてふそぶ側に立っている皇子としてのオルバ。
伝聞ではない、どちらの立場もみわもって体感しているからこその自身への問いかけは印象的。
オルバの場合は、正体を知っているごく限られた仲間が配下にいてよかった。たとえ1人だとしても、彼からあらゆるものをうばった、あらゆるもののために生きてやると決意している強靭な精神が支えとなるか。

健闘大会での豪腕パーシルとの血塗られた闘いは姫と同じ胸中だった。
陰謀をかぎつけ、把握するために一芝居から同情を誘って情報を引き出し、クーデターの対策を進め、実行する一連の行動力はどうなるのかとそわそわして読み入った。
今回はビリーナ姫が得意とする飛空艇でオルバと共同したのが熱かった。
これでオルバは初陣に続いてクーデターを防いでみせたことで自他ともに認める皇子となり、うつけの皇子の印象をぬぐいさったか。次巻は因縁のアプター砦なので注目。

スポンサーリンク