
杉原 智則(著) ●3(イラスト)
〇あらすじ〇
兄の悲劇を知ったオルバは、その元凶である自軍の将軍・オーバリーへの復讐の念を新たにする。オルバが泣くのを目撃してしまったビリーナは接し方を思いあぐね、また帝都からは"皇太子ギル・メフィウス"の正体について疑念を持つイネーリが来訪する。ついに復讐へと動きはじめるオルバ。一方、ビリーナの故国・ガーベラへ隣国エンデの公子・エリック率いる軍勢が進発。開戦まで一刻を争う事態となっていた。オルバは"皇太子ギル"として、そして"オルバ自身"として決断を迫られるが-。
ネタバレを含む感想~
烙印の紋章のプロットにうなる。4巻で第一部完結ということで。
1~4が第1部、5~8が第3部、9~12が第3部のよう。
兄ロアンの真相を知り、復讐に身を焦がしてたオルバの中でさらに沸々と煮え立って「もう皇子なんて関係ねぇ」と言いながらも最後は責任を果たし、3国の『利』を求めた会談で戦争を一旦終わらした手腕はおそるべし。
己の命は、あらゆるものをうばった、あらゆるもののためにある、という自分を生かしている初志。途中いくら辛酸を嘗めようと復讐のために生かし、皇子の責務を果たしつつ、その立場でできる権力を用いて用意周到にこの日のためにぶれずにやってきたオルバの労力が凄まじい。ダークヒーローのかっこよさなんて言ったら陳腐に聞こえるくらいオルバは英雄であり、闇の英雄でもあったと思った。
メフィウス内でオルバの武勲を称えて支持を得てきた矢先、剣闘士オルバと皇子の仮面をとって暗殺されたことにする強烈な幕引きに、うなった。復讐を果たして、まとっていた『気』がなくなって復讐に至った心境は空っぽのよう。
皇子は偽物であると、ザットの謀反の時にみせた皇子の活躍をみてそう思い始めたイネーリがオルバにかまをかけて成功して確信したところ。皇子の正体を暴いて手柄を立てようとするところで、オルバが「ガキが」と言い
「おれのことを知っていると言ったな。おまえに何がわかる。それ以上にぐだぐだ抜かすようなら、そのそっ首、この手で絞めあげてくれるぞ。わかったな、小娘」
p224
よりイネーリを焚きつけたところで暗殺されるんだから、いっそ清々しい。
そしてビリーナ姫。ビリーナ姫の心中をお察しすればとても辛いところ。
皇子といた初めての穏やかな時間が最後になるなんて・・・。
ビリーナが、皇子がこれからは策を開示して、これから手を取って尽くしていこうという展望を抱いた矢先、皇子暗殺によって魂がぬけたようになってしまった。
皇子が最後に見せた笑みにはかなさもあったことを14才の少女は気づかない。
ビリーナは満面の笑みを浮かべていたのに同じ笑みでもこうも印象がかわるのか。
「忘れないことだ。メフィウス皇子ギルは、『嘘つき』だからな」
p290
『嘘つき』はビリーナへの最大の譲歩だったのではないか。
皇子の遺体は見つかっていないし、後々皇子の言葉を思い返した時、『嘘つき』が深謀遠慮からくるものだと勘定するのだろうか。