烙印の紋章 Ⅹ 竜の雌伏を風は嘆いて 感想

Amazon  BOOK☆WALKER

杉原 智則(著) ●3(イラスト)
〇あらすじ〇
皇帝グールに対しついに反旗を翻したオルバは、辛くも緒戦に勝利しビラクを手中に収めた。帝都ソロンでは皇帝の専横がますます目立ちはじめ、メフィウス国内の風がオルバに吹き始めるかに見えた。しかし、隣国ガーベラとエンデでも内紛が起き、それがメフィウスにも影響を与え始める。ネダインでの反乱、そして竜神教の不穏や動きなど刻々と変化していく緊迫した情勢の中、オルバが選ぶ次の一手とは。そしてビリーナの覚悟とは。英雄への道を描くファンタジー戦記、第10弾。

ネタバレを含む感想

内面で渦巻く情動の描写は読者に訴えるメッセージ性があって毎度の心の動きの描写は味わい深い。
憎悪の感情を膨れ上がらせこの手にかけてやりたい感情とワンシーンが脳裏をよぎり手にかけたくない相反する感情とのせめぎあいに苦悶するシーンは熱狂だった。
甲斐甲斐しく支えてくれていた仲間を失った。今までの復讐のためだけの戦いではない、多くの仲間の命を預かった自分との戦いであり、メフィウスの未来に係る戦いでもある。そうした状況下で募らせていくオルバの不安と焦燥を嗅ぎ取って危険な行動に移すのがやっぱり"あのビリーナ姫"なんだ。剣闘士オルバではまだ共感しがたいかもしれない皇族としての勤めを果たさんとするビリーナの勇猛さに凛々しいお姿を見る。
オルバが抱える問題の1つを見事やってのけったビリーナだったけど策略にのまれ・・・
皇子に渡してほしいメダルに刻まれた『永遠に剥奪されぬ友情を』が印象的だった。皇帝の近衛兵が反乱分子のギル皇子にビリーナから託されたメダルを届けることは大問題だが、ビリーナ姫の気高き行動に心を打たれ、なんとしても使命を果たさねばならない騎士道の在りようもまた気高い。疑問を覚える皇帝のやり方よりも理想を実現しようというギル皇子の方にだんだん多くの民が心を傾けつつある。もう次巻は表紙がオルバ1人で飾っているので期待値が高い。
今まで王女の猛進に並々ならぬ影響を受けてきたオルバだけど今回ばかりは王女の行動に対して疑問が残り、胸中で熱が暴れまわっている自分自身が分からなくなっているところが肝だと思う。そして禍々しい魔導士の1人に正体がばれてしまったのでメフィウスを導くためのオルバの足元は瓦解するのかどうか、崩れ去ってしまうのか。剣闘士オルバとして、皇子ギル・メフィウスとしての戦いはさらに混沌としたものになっていく。
この深い物語があと2巻で終わってしまうことに寂寥感を覚えつつも、数々の積読本がある中でもいまはただ烙印の紋章しか見えない没入感が上がりっぱなしだ。

オルバの窮地に登場したパーシルが皇子の背中の烙印の紋章を目にして、数々の疑念が氷解していく様がいい。パーシルだからこそいい。パーシルが語りかけた

「前に聞いたな」
小声で語りかける。
「なぜ、いつまでもついてくるのかと。ならばおれのほうから聞いてよいか。いつからだ。そしていつまで、おまえは皇太子なのだ?」

P364

いつまで皇太子をやるのか。前巻のゴーウェンと同じ問いの投げかけだった。
オルバを支える多くの人物が同じ方向を向いているので、疑問をもったところで今までのオルバの戦功と、示してきた指針から自ずとついていくようになる展開にいつも心躍らせる。

スポンサーリンク