烙印の紋章 Ⅺ あかつきの空を竜は翔ける 上 感想

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杉原 智則(著) ●3(イラスト)
〇あらすじ〇
勢力を増すオルバの軍勢。もはや看過できなくなった皇帝は、オルバを帝都へ招くという強行手段に出る。 一方、隣国エンデには、戦巧者の 『小覇王』 カセリア率いる東の大国・アリオン軍が迫るという事態に陥っていた。 アリオンの野心はエンデに留まらず、必ずやメフィウス、ガーベラにまで及ぶ ──。その危機を前に、オルバが、そして負傷をして祖国ガーベラに帰国したビリーナが行動を開始する!

ネタバレを含む感想

己の命から己のすべてへ、ここに立つ志

1巻でオルバは復讐を果たすため『おれの命は、おれからあらゆるものを奪った、あらゆるもののためにある』だったが、11巻で命を含めたオルバのすべてを本人が以下のように心中で発したことに、11巻までの血みどろの道で見つけた答えがあるようで、深い印象をもたらした。

(刃がおれの首を刎ねて、銃弾が心臓に命中するその瞬間までは)
(抗ってやる)
(戦ってやる)
(おれのすべては、おれが生き抜くすべてのためにある)

p202

最下層にいる奴隷の身を経験しているからこそ、玉座について統治する意義があることを見出し、最後まで皇子ギル・メフィウスとして周囲を欺き続けることを真に決意しながらも、オルバはメフィウスを正しい方向に導く王者としての風格を兼ね備えていると実感する。もう皇子の仮面をとって、最下層の窮状を誰よりも身をもって知っている真の王に見えてならない。
皇帝に背中を見せろと命令されて死ぬかもしれない賭けにでたところ、皇帝によって銃で撃たれようと反グール派がメフィウスを正しく舵を切ってくれることを見据えて、国の今後を想っての覚悟がある主人公の背中が大きすぎる。背負ってきたのは数々の痛みと痛みの中から生まれた、復讐に身を焦がしてきたオルバには視野に入れようとしなかったメフィウスの未来について。
何者か?と、ビリーナがオルバが本物の皇子ではないと肝心な時に思い出させてくれるからこそ、ここにいる己の存在理由がある。本物の皇子であったならどんなによかったかと、こぼすオルバの言葉が痛切に響く。
かつてゴーウェンからの問いでぶれたオルバだけど、もう地盤を固めた感じがある。身も心も。

孤高な皇子が帰れる場所を


ビリーナ姫。作中だとオルバとビリーナが言葉を交わすシーンは少ない。が、距離おいてオルバもビリーナも相手の身を想うシーンがいつも心に残って好きだったりする。ビリーナ姫にとっての心身を打ち明けられる祖父のような存在がオルバにはいないと気づいた時の彼女の吐露

(このビリーナには、打ち明けてくださってよいのです)
世のなかの、自分以外のすべてが敵ではない。あなたがたとえ一敗地にまみれて、血まみれ、泥まみれ、涙まみれになって帰ってこようとも、あなたを抱きしめる腕が確かにここにあるのだと、あなたの涙を隠す胸がここにあるのだと、そういう人が確かにいるのだと、教えてやりたくなった。
閉じた瞼の下から、すうとひと筋の涙が落ちていく。
(どうして)
距離を隔ててはじめて気づかれるものの、なんと多いことか。

p141

好きなフレーズは書き留めておいていたくなる。後々振り返ったときに1読者にとってここが印象に残ったのだと記録するためのブログであることを再確認させられる。
そう思いを抱いたビリーナが最後、1巻で皇子が殺され、彼が生きているはずがない真実を知っているライラから真実を打ち明けられる展開になるとは・・・ビリーナで皇子の像が揺らぐのだろうか。
だがビリーナが、皇子の言動を回想して、見てきた真実と、衝撃の事実が打ち消しあうのか、"あのビリーナ姫"の行きつく先が描かれる最終巻に向けて面白くなる種明かしだった。

表紙は、仮面と剣闘士と呼ばれ、後にメフィウスの竜皇と歴史に名を刻んだオルバでありギル・メフィウスが飾る。11巻になんとふさわしい書影か。

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