ただ、それだけでよかったんです 感想

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松村 涼哉(著/文)竹岡 美穂(イラスト)
〇あらすじ〇
第22回電撃小説大賞<大賞>受賞作!
壊れてしまったこの教室で、一人ぼっちの革命がはじまる――
頂点に輝いた空前の衝撃作!!
ある中学校で一人の男子生徒Kが自殺した。『菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない』という遺書を残して――。
自殺の背景には“悪魔のような中学生”菅原拓による、Kを含めた4人の生徒への壮絶なイジメがあったという。だが、Kは人気者の天才少年で、菅原拓はスクールカースト最下層の地味な生徒。そして、イジメの目撃者が誰一人としていなかったこと。彼らの接触の証拠も一切なかったことなど、多くの謎が残された。なぜ、天才少年Kは自殺しなければならなかったのか。
「革命は進む。どうか嘲笑して見てほしい。情けなくてちっぽけな僕の革命の物語を――」
悪魔と呼ばれた少年・菅原拓がその物語を語り始めるとき、そこには誰も予想できなかった、驚愕の真実が浮かび上がる――。
圧倒的な衝撃、逃れられない感動。読む人全てを震わせ4,580作品の頂点に輝いた衝撃作。

ネタバレを含む感想

本当に、それだけでよかったんです。だが人々の中でわだかまり、増長し、群れとなって心身をえぐる悪意、様々な圧による逼迫は、たやすく人を壊してしまう。
真実を知らず、知ろうともせず、便乗してあれやこれやと言葉の刃を刺してくる様は、物語の地続きである読者の世界では日常茶飯事であり何かの本で読んだ「透明化された存在」を思い出す。
本質を知ろうともせずっていうのは、だって傍観者や大衆はたいして知るための学習コストを支払わないから。
面白おかしく、自分も同意見述べておかないとはぶられちゃうことを恐れて保身ために便乗、見てみぬふり。
正義の凱歌を歌いながらいじめるのだ。嘲笑の的とするのだ。

本作の主人公をリアルで、メッセージアプリで嬲ったり、痛罵したりする様を見て"人"を見ていたと思う。
透明化された社会というのは、だいぶ前に読んだ社会矛盾序説っていう本。
本作は醜いところの描写だけでなく、人の温かさも描かれていた。一人ぼっちで革命を起こした少年と、自殺した少年の姉の視点で真相に迫りながら描かれる人の美醜。それと明らかになる事実に関心を寄せられ続きが気になる面白さがあった。

先日に電撃文庫のラジオチャンネルで出演していた編集長を見て、去年あたりのメディアワークス文庫の編集長と新人賞についての記事を思い出した。言及されていたのは、面白さとは色々な面白さがあるが総じて言えば読んでいて続きが気になる!ことが面白さという。文章も大事たけど一番は面白い展開を!文のテクニックは後で身につく、とのこと。
本作の文については一人称視点で怒涛の内面を字面からも表現されていてよかった。
主人公の好きなセリフは「自分以外はみな背景」
昌也の姉の視点では

あの頃に比べて、視点はとても高くなってしまったれど、わたしがいる場所は紛れもなく昌也との思い出が詰まった場所だった。だって、匂いが変わらない。土と芝とプラスチックに擦れたゴム、自分の身体を優しく包んでくれるのは、十数年前と同じ空気だった。

p16

思い出の場所。大切な場所。思い入れがある場所。かつての印象深いシーンを思い出しているとして、匂いにまで言及するところが読んでいて満足度が高かった。そうだよね、思い出の記憶に死人は踊る。

学校が導入している人間の性格を数値化する人間力テストによって、自分の評価を守るために心の余裕がなくなってくる人の心境が痛切に響いてくるかのようだった。低くなったら自分がいまいる場所を失ってしまうのではないか、人間性そのものが否定されてしまうのではないか。保護者の心配する声がかえって重圧となって心が疲弊してしまっては学校でも家でも落ち着かないじゃないか。担任は無力だし。こういうとき気軽に相談できる親友の存在が肝要になるのだと思った。主人公は他人の目線は気にしない、自分以外は背景と言ってはいるが目に見える形のいじめや、強要の羞恥プレイで心をかき乱されてしまうよ・・・
世間にまで嘲りの目を向けられた一人ぼっちの革命を実行する少年の外面と内面の描写の対比が魅力的だった。

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