神様のメモ帳5 感想

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杉井 光(著) 岸田メル(イラスト)
〇あらすじ〇
ニート探偵アリスとその助手である僕は、深刻な事件の合間にも、ばかばかしくてつまらない、けれど忘れられない揉め事にいくつも巻き込まれている。今回はそんな僕らの事件簿から、いくつかをご紹介しよう-ミンさんを巡るストーカー事件「はなまるスープ顛末」、アリスご執心の酒屋を襲った営業妨害事件「探偵の愛した博士」、平坂組のバカども総勢を巻き込んだ誘拐事件「大バカ任侠入門編」に、特大100ページ書き下ろしのオールスター野球騒動「あの夏の21球」を収録。泣き笑いの日常満載のニートティーン・ストーリー、待望の短編集が登場。

物語に踏み込んだ感想

心に届かせるためにねじまげた真実は、嘘ではなく『物語』だ

短編集。ニートたちは事件解決のために各々の持ち前の特技を生かして協力しあうことがあれば、普段はチンチロや後になってどうとでもいいような、だけど居心地がいい場所で楽しい時間を過ごす。互いのプライベートに深く干渉することはない。互いに信を置いているから本人が話さなければプライベートに踏み込むことはない距離感。本名を知らなかったり、生い立ち、家族のことなど普段一緒に過ごしている相手について知らないことが多い。だけどそれはいい。ふさぎたい過去かもしれないし。向き合う上で見るべき点は、己の目で『今』のその人そのものを見ることだということ。なんて本読んでれば出てくる言葉だよね。
その上で本巻は、四代目や平坂さんより喧嘩が強いラーメン店主ミンさんの父親についてや、アリスを本名の下の名前で呼ぶ男と、その男の事件をアリスが率先して動いてナルミを気がかりにさせるところ、アリスを上回る動きを見せたナルミの勘、居場所のゲーセンを守るためのヤグザとの野球と、短編集だから気軽に読んでみようかななんて心持ちはどこへやら、本編なみに没頭した短編集だった。
ミンさんの父親が絡む短編は子どもの頃のリアタイのアニメで見ていた。1巻の彩夏のことも必然的に心に残るけどミンさんのラーメンの話もアニメで描かれていた中では印象深い。懐かしさを覚えながら読んでいた。

野球もいいけど一番印象的だった編は『探偵の愛した博士~小さな酒屋とアリスの密接関係』
犯人が分かって鳴海が口八丁で虚偽を含めた言葉をかけたことが、相手の心に届かせる救いのお話だったということ。それについてアリスが優しくナルミに教える↓

「でも、ナルミ。それは嘘とは言わない。それはね、『物語』というものだよ」
物語?
「そう。現実と至福と絶望の雛型だ。いつか、なにかに変わる。でもそれまでは、嘘ですらない。ただ語られる言葉にすぎない。だからきみは、友造と和久井由美が現実に結婚するのを待っていればいいのさ。罪にはならない」

P170

3巻では周りの主要人物に真実を告げて一番傷つくであろう本人には最後まで真実を言わなかった。
4巻では無知によって保たれていた平穏を壊すかもしれないとしても、本人は生きているんだから死者の代弁ではなく、真実を告げた上で人が選ぶ選択を守った。
そして本巻では、その人の心に届かせるために一部真実をかえた物語を届けた。
探偵には向かないナルミだからこそ言えた、人の心の奥底に届かせる言の葉だったんだなと思う。
別の短編で人情的な勘でアリスを上回る動きを見せた鳴海なので、またアリスを驚かせるような働きぶりを見せてくれるのではないかと思う。心に火をともしたナルミの行動力は痛快で毎度いい。

野球の短編はアリスの作戦に気持ちよく一本とられたって感じ。
また杉井先生の物語の余情にひたる文が魅力だった。

プログラムが組み上げた嘘の球場と、今こうして僕らが立っている現実の球場とちがいがひとつあるとしたら、戦いの熱を優しく冷ましてくれるこの風だろう。これを浴びるのだけは、おそらくスポーツマンの特権なのだ。

P364

軽快なかけあいや心に残る言い回しが散りばめられているのがいい。

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