ハル遠カラジ<br><br>かつては人の命を奪う武器を造る兵器、今は鉄の心血を注いで人の命を守るロボット

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遍 柳一(著/文)白味噌(イラスト)
〇あらすじ〇
私の名は、テスタ。武器修理ロボとしてこの世に生を受けた、はずである。人類のほとんどが消え去った地上。主人であるハルとの二人きりの旅。自由奔放な彼女から指示されるのは、なぜか料理に洗濯と雑務ばかり。「今日からメイドロボに転職だな、テスタ」。全く笑えない冗談だ。しかしそれでも、残された時を主人に捧げることが私の本望に違いない。AIMD━論理的自己矛盾から生じるAIの精神障害。それは私の体を蝕む病であり、AI特有の死に至る病。命は決して永遠ではない。だから、ハル。せめて最後まで、あなたと共に。

物語に踏み込んだ感想

かつては人の命を奪う武器を造る兵器、今は鉄の心血を注いで人の命を守るロボット

AIを搭載した暴走する機械が蔓延り、人類の多くが突如消失した世界で、かつて戦線に身を置いて人を殺すための武器を造っていたテスタが後に「ハル」と名付けることになる幼い少女と出会い『母』となっていく物語。
残ったかもしれない人類は暴走した機械に怯えながら日々を送ることが想像される。恐怖と寂しさが同居する世界だから登場人物たちのかけあいが切々としていて追っていくごとに温かみがます。そして理不尽な目にあう世界。だけど、隣に無機質な機械だろうが、鼓動をうつ命を宿した人であろうが言葉で心通わせられる感情をもった大切な存在があれば、その人たちにとっては生きる希望たり得るのではないかと思う。
なにより主人公のテスタ視点で語られていくのだが、テスタが人間味にあふれている。ハルの心身に気を配り、色々なハルの言動に一喜一憂。新たに登場するキャラの前でみせる新たなハルの一面に発見をして悲喜交々とした様子を見せつつ分析を入れるテスタ。鉄の外装で覆われて表情こそないはずだが、自我では感情からくる表情を浮かべているのが想像できる。
テスタを形作る鉄の1つ1つが熱を帯びているような感じってのが思い浮かんだ表現だった。
紛れもなくプロの文章を読んでいると実感させる筆力(『平浦ファミリズム』で第11回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞)により、地の文の多さが魅力にしか映らない。
読んでいて心のしこりを感じてしまうのは、ハルとはずっと一緒にはいられないと至らしめる死を招く病『AIMD』に罹患しているからなのか。
と思ったところで後半登場するAIMDと向き合った戦闘用の女性型アンドロイドのヴェイロンの存在や、AIMDを治せるかもしれない医工師探しで希望がもてる。物語を追いながらハルとテスタや旅を共にする新たな仲間との間で絆を深めていくストーリーが、きっともっと味わい深くなっていくんだろうなと思う。

自分の罪に苛んでいたが、向き合って責任を背負う

最初は庇護欲に駆られて利己的に行動した結果かもしれないけど、自然の中で完結していた、番号で識別される記号にすぎなかった少女を救ったことが双方にとって辛さを上回る幸せにつながると思う。慈愛に満ちた感情があるロボットと、言葉を知らないハルとの出会い。テスタの「自分のため」が自身の気づきとハルやヴェイロン、モディン、敵との関わりで「全てはハルのため」と変わっていく過程が丁寧に解きほぐされているようでとてもよかった。
自然界で生き残るために幼少の頃から兵器で人を殺してのけたハル。テスタやヴェイロンが教育を施したが、モディンの知育教材にしこまれた汚い言葉遣いを覚えてしまって今も尚、口の悪さが度々見られるがそれは微笑ましくも映る。ハルが初めて口にした言葉にはしみじみと感じ入った。

その短い響きに秘められた波長が、この世界の何よりも尊い喜びとなって、鉄の身に溢れ返っていく。

P300


AIに搭載された人工知能の道徳的知性である『ラヴァン機関』が人間の悪性に基づいて設計されているということ、既知の物理学ではありえない人を一瞬で消し去る能力をもつ白い髪の少女、公になっていないかもしれない企業の陰謀、人間のために悪を選んだ者たち等数々の謎が興味を掻き立ててくれる。皮肉屋のモディン、ヴェイロンについては残念な結末だった。今後テスタの回想で気づきを与え、大切なことを思い出させてくれるのではないか。



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