ひげを剃る。そして女子高生を拾う。4 感想

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しめさば(著/文)足立 いまる(イラスト)ぶーた(企画/原案)
〇あらすじ〇
家出JK・沙優とサラリーマンの吉田、2人の同居生活は沙優の兄・一颯が訪ねてきたことで突然終わりを迎えることに。家に連れ戻されるまでに与えられた猶予は、たった1週間。
 吉田が自分にそうしてくれたように、自分自身としっかり向き合いたい。
 タイムリミットを前にして、沙優はゆっくりと口を開いた。
「聞いてほしい。私の……今までのこと」
 学校のこと、友達のこと、家族のこと。沙優が何故家出をして、こんな遠く離れた街までやってきたのか。そして吉田と暮らした日々で、彼女が得たものとは――。
 サラリーマンと女子高生の同居ラブコメディ、急展開の第4巻。

物語に踏み込んだ感想

ここに、1冊のライトノベルがある。 旭川出張が決まったとき、ぼくはその地名から家出してきた生徒が出てくる積読本を手に取った。旭川で読み終えた。書名を『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。4』


時は2019年1月1日。新年早々期待を膨らませて3巻を買って、2日に読み終えた後、胸中で「みしまぁ!」と叫んでいたことを覚えている。胸の中で暴れまわる熱量を誰かに見せつけてやりたい・・・みたいな心中でしたっけ。ずっと前から吉田さんを知っているのに、吉田さんはぽっと出の沙優を気にかけていて彼は鈍感で自分に向けられた気持ちに気づかない感じ。そして最後に否応なく突きつけられた現実という迎えなければならない終着。気になる第4巻は!?ということで5月発売となっていたが音沙汰がなく、まさか打ち切り?なんて思ったりしたけどアニメ化が発表されたことによる続刊確定で安心していた。4巻が出た2020年8月に買ってから積んでいたが、旭川にいくことになり、その地名から家出してきたヒロインが書影を飾った積読本があるなと思い出して手に取った次第。そういうつながりで手に取ったことは一見世間から忌避された虚妄で片付けられそうなんだけど実際そうなんだからしかたない。
だけど読んでいると旭川にいることで心が浮き立つところがあって神妙な気分になる。
沙優が、都会にきて気づいた旭川と都会の夜空の違いを吉田さんに言っていたところ。
そのシーンを読んだ当日の旭川の夜空を見上げていた。真っ暗だった。ビジネスホテルがあるあたりは光害が多いからしょうがなかった。物語に戻ってP177挿絵に沙優が吉田さんを連れて行った場所で星がよく見える東京の夜空が映っているんだけど、東京にこんなに星が見える場所があるのか、奥多摩か?青梅か?なんて思ったけどこのシーンは沙優が吉田に出会えて得たことを告げる重要なシーンでもあるんですよね。星空の感想とあわせてよかった。

北海道の夜空だ。去年の北海道ツーリングで撮った写真だが。このように、北海道の夏はからっとした暑さで空気が澄んでいるので星空がよく見える。沙優の指摘は納得するものだった。

子どもが目にするにはあまりにも酷で

はじめから中々の剣幕で物語が始まったと思いきや沙優の兄は一旦考える猶予の時間をくれた。
バイト先の友人と吉田が沙優の過去話を傾聴する。
頼れる兄は仕事で忙しく、母は沙優を忌み子のように扱い愛情を注ぐことはない。学校では周りの人たちとの温度差により、交友関係を望まず一人ですごしていた沙優。たった1人の友人に出会って始まった楽しい生活はあまりに酷な結末で終わってしまった。肝心の過去話にしては話が短かった印象が残ってしまった。

その出会えたことが過去に向き合い今後の糧となるのか

吉田は沙優のためと色々言ってはいるが、そこに彼の意思がない。社会人として、沙優のため、事情を考慮して望ましい帰着となるような展開。だけどしょうがないのか。沙優と吉田は立ち位置が不安定で、女子高生を匿うことによるリスクと沙優の家族の問題がある以上、一緒にすごす時間が長くなるほど、必ず迎えるお別れが辛くなるだけ。そういう現実的な問題を投影してくれるところが本作の魅力でもあるのだけれど。
沙優にとって吉田をはじめ自分を大切に想ってくれる大人がいることの温かさ、吉田さんに出会えたことは今後の糧となるのかな。元々心が強い印象。過去を打ち明けてからは涙もろくなっている印象たけど、今まで話せる時がくるまでため込んでいたものが堰を切ったようにあふれ続けているのか。本巻で何回涙を流したことか。
同僚で男である橋本がガツンと吉田に気づかせたところ、いいね。男の同僚ってところが。確か橋本は結婚していたよな。橋本、バイト先の女子高生のあさみ、三島といい吉田と沙優を取り巻く人たちは深く踏み込まないようでいて助言を与え、2人から思いを引き出すよき立ち位置。沙優の後ろには吉田を筆頭によき理解者が多くいて彼女の力になる。これから吉田は沙優の家族の問題に踏み込んでいくのか。意思を介在させて。

他に味わい深い小説を求める人に

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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