それでも、医者は甦る -研修医志葉一樹の手術カルテ- 感想

Amazon  BOOK☆WALKER

午鳥志季(著/文)
〇あらすじ〇
この春大学を卒業し研修医となった志葉一樹。過酷な労働環境に辟易していた彼は、難病で入院中の女子高生・湊遥の自殺を思い留まらせたことをきっかけに、彼女と打ち解ける。しかし手術は失敗し、遥は死亡してしまう。
 ところが志葉が目を覚ますと、日付が手術の前日に戻っていた! 遥を救うために奮闘する志葉。だが何度繰り返しても遥の死は防げない。絶望的なループの中で志葉が見出した真実とは? 現役医師が医療現場の現実と“希望”を描いた感動の医療ドラマ!

電撃文庫『AGI -アギ- バーチャル少女は恋したい』で2冊出している午鳥先生の最新作は、現場の経験を生かした医療モノ。

物語に踏み込んだ感想

医者はクソと言いながらも主人公は、医者だった

「医者ってクソじゃね?」
「やっぱり医者ってクソじゃね?」と言いながらも主人公の志葉は、患者の湊遥に向き合い続けた一人の医者だった。話を進めながら医者という仕事、現代の医療制度に疑問を覚えながら職務を全うしていく研修医の物語は、今以上の策を見いだせるのか続きが気になる面白さと、現代に通じる医療への問題提起がいくつかあって読みながら考えさせられる。
医療設備が整った大病院、その分野で名医として名を轟かせている別の医者がいて、今できる最善の環境で手術に向かうも患者は死んでしまう。手術日を後日にすれば翌日に亡くなってしまう。繰り返されるループの中で考えられる策を講じるが湊遥は死に至ってしまう。助けるという約束を果たすため、精神を擦り減らしながら奔走する一人の医者の物語だった。繰り返してきたループの数が明かされた時は驚いたし、廃人にならずにループで経験したことを力にして奔走する研修医はかっこいい。
湊遥の自殺をとめようと最初は患者に配慮した言葉をかけていた研修医だったが、最後は「病院は病気を治すところで、そこにお前の人生相談をきいてやれるほど暇な医者はいない」と建前をとっぱらった言葉をかける。そこからの損得に訴える上手いやり方で自殺を踏みとどませる物言いは見物だった。

医療制度の崩壊に警鐘を鳴らす

救急車の搬送平均時間が年々伸びているとあってネットで調べて深く学べた。理由も本書にある通りで読みながら意図せず新たな知見を得られるのは業界モノの魅力だと思う。他の医療関係者が明かす以下のような問題提起に読み入るものがあった。医者の数が限られていて高齢化社会で逼迫する医療の現場の様子。先が短い命のためにかける金と場所を他に救うに値する命にかけられないのか。医者のワークライフバランスは?命を助けるためという崇高な志を持ち続けたまま今の医療現場でやっていけるのか?本人の意思とは関係なしに自由を奪われ意思疎通ができない患者を延命治療することが本当の医療なのか? など現代の社会に通じるテーマを気づかせてくれた本でもあった。
尊厳死とかターミナルケアとかいつ読んだか忘れた新聞に出てきた黙考したテーマを思い出した。

スポンサーリンク