それでも、あなたは回すのか 感想

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紙木 織々(著/文)
〇あらすじ〇
僕たちは「物語」の歴史の最先端を走ってる。編集者になりたい。そんな夢を胸に出版社を受けるも、就職活動がまったく上手くいかず、ソーシャルゲーム開発会社に入社することになった友利晴朝。配属されたのは、社内で「サ終(サービス終了)」と呼ばれる赤字チームだった……。ユーザーの声がダイレクトに届く運営現場。課金。ガチャ。そして、炎上。急成長するエンターテインメント業界、その内幕を描く新時代のお仕事小説。

物語に踏み込んだ感想

一翼を担うことでは得心できない苦さを噛みしめて

ソシャゲ部という部活動で高校生が協力して創作に打ち込む作品『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで』


の著者、紙木先生が出した新作。
本作は同じソシャゲを扱っていて、物語が好きで出版社を受けるも難航し、ソーシャルゲーム開発会社に拾い上げで採用された主人公が、ソシャゲ自社開発の部署に配属され自身の立ち位置に悩みながら奮闘する物語。
ソシャゲはずっと前にモンストやツムツムをやっていたくらいで今のソシャゲ業界の動向は分からないけど、そんな読者のために用語は逐一説明が入っていてよかった。業界の内情にそこそこ踏み込んでいる感じのリアリティと主人公が悩んで、もらった言葉を消化して自分の力にして踏み出していく熱さがあるお仕事小説でよかった。

社内に憎まれ役がいるけど正鵠を射ている指摘をする人で嫌悪感なんてないし、ハネサキの発破のかけかたが好きだわ。自身で悩み、気づいた時に湧きおこる力の方が、直截な助言や答えを与えて分からせた時のよりも大きいと思うから。
最初ハネサキが表紙の人かと思った冒頭の数ページ・・・だったけど書影に写っているのは同じく拾い上げで採用された高卒の女子。憧憬を揺るがぬ志にかえて、自信があるイラストの技術でなりふりかまわず進んでいくような勢いがある彼女。取り繕ったり妥協することを是が非でも許さない。そうする人が嫌いだけど、そうする自分が一番大っ嫌いと思っていそうな子で、纏った熱がかえってまわりに飛び火しかねない柔軟性のなさが見られる。技術も心持ちも主人公とは対極に位置するような同じ新卒と同じチームで仕事をして互いに働きかけてぷプロジェクトに貢献したり、今後を見据えたりと印象的な話もあった。
プランナーの猪原さん、筋肉全開で頭が筋肉でできているのではないかと揶揄されがちな人物だけど、彼は終始仕事人として全うな働きぶりだったよね。豪快なところは湿った空気を吹き飛ばすし、差し迫った時は相手の触れられたくない核心をついて火を灯らせる。業種を問わず、社会人の筋トレのメリットをよく知っているような。鍛え上げられた肉体に裏打ちされた精神を彼からみた。あと安村さん・・・プロフェッショナルで改めて学びました。本棚に眠っている『入社一年目の教科書』をいつでも読めるよう電子書籍版で買ってタブレットに落としたいと思いました。

主人公が最後に手に入れたものは、今後の仕事の原動力となるんだろうか。身に沁みて感じたその感情はなんて尊いものだろうと思った。

それでも、回し続ける

「サ終」という赤字運営から名づけられたもう一つの名前。コスト削減の対象になってしまい取り急ぎ打開策のために準備した資料は何の説得力にもならなかった。精一杯がんばったとか言わないでよね という指摘は納得せざるをえないもので会議の場に求められるのは建設的な議論であることを痛感させてくれる。
主人公がやってきた業務は、ただ闇雲に取り組むのではなく、全て意味あるもので、やりながら何か発見を見出すことが大切なんだねって。デバッグの1つ1つが実装された機能の工夫したしたところや、注ぎ込まれた技術を垣間見ることにもつながる。それらとユーザーの声は今後の改善のヒントにもなる。
組織の一員として働く以上は希望にそぐわないことをやることがある。主人公の自分にできることを実直に取り組んでいったことが功を成すことにつながった。

「それでも、あなたは回すのか」という書名。帯には「貴方は私で課金する?」とある。
ガチャは金を使って回す賭け事だ。「私で課金する?」は人に賭けてみるかの問いに思える。時にはシステムに委ねる賭け事もあるし、結果は誰にも分からないものに臨むことが賭け事とも言えるかもしれない。ゲームの運にしろ、多角的にみて分析して入念の準備の上で臨むことも。それでも、できることをやって回し続けるしかない。

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