こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~  感想

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陸道 烈夏(著/文)カーミン@よどみない(イラスト)
〇あらすじ〇
《フウ》――最下層の孤独少女。
 友は小鳥のアサと、ジャンク屋の片隅で見つけた、古いラジオのみ。
 《カザクラ》――マイペースな腹ぺこガール。
 出会った瞬間からフウを「お兄ちゃん」と慕い、陽気な笑顔でつきまとってくる。
 そんな二人が出会ったここは、世界にただ一つ残るヒトの国。異形の怪物たちが支配する果てなき砂漠の真ん中で、ヒトビトは日々の貧苦を喜びとし、神の使いたる王のために生きねばならない――。
 だが、彼女たちが知る世界は、全部大ウソだった。
 たくさんの知恵と一握りの勇気を胸に。今、《世界一ヘヴィな脱出劇》が始まる。
 第26回電撃小説大賞《銀賞》受賞作。
 風の名を持つ、二人の少女の物語。

物語に踏み込んだ感想

頬を伝う涙の味で、母の死因に得心する

春ごろに半分まで読んでいた。今一度はじめから読み進めて、同じところで再度深く感じ入った文がある。春頃、「おお!」と、この一文があるだけで印象が様変わりするような自分にとっては強烈な一文だった。

成程。
男の言った通り、塩の味がした。

P22


世界にただ1つの国。多くの真実が多くの事実を覆い隠している国。同行者の多くが砂漠のモンスターに食われ、初めて科学的な思考で博打を打って生きのびた主人公フウが薬を届けた頃には、母は死んでいた。薬を届ければいいと思っていたが、結局その薬では意味がなく、母は脱水症によって亡くなったという。人間には塩と水がないと死んでしまうと教えられたフウ。引用部分は、頬を伝う涙を舐めた時の描写。涙が伝った。の表現にとどまらず、人間からあふれでたものを舐めて塩の味がしたことを確認して得心に至る描写があるのとないので印象がかわってくると思った。この世界がディストピアであり、そんな世界で生きていくために母の死の確認から時間をおかずに学んだことを実体験して修め、知ることを武器にしていく。そんな厳しい世界と血道を上げて生きていく少女の様相を表しているようで深く印象に残った。

知識欲が芽生え始めたところに、フウにとって生きていく上での先生であり、心の拠り所となるラジオに出会う。どこかの物好きが流しているという亡びた国の番組が聞けるラジオ。そこで流れる様々なジャンルの教育内容や娯楽がフウには生きる糧であり、活力となり、癒しであった。ラジオで学んだことを現在の情報と照らし合わせて考察して賢い商いをしたり、交渉して武力衝突を避けたりする展開はどれも見どころだったし、さらにスケールアップして経済、物流の仕組みが分かってくると世界にただ1つの国の国力だけで様々な物資を自給できるのか?と疑問に思い調べていくと今まで知っている真実の裏から何か隠された事実が浮かび上がっていく展開はわくわくで、その高揚感は最後まで続いて楽しかった。知ったことでわいてくる疑問、浮き彫りになる事柄。ラジオで学んだことを血肉にして身近なところから国レベルにまでつっこんでいく展開は終始わくわくがおさまらなかった。読者視点でたぶんそうだろうと見当がついたことをぽっと出のキャラが助言するのではなく、調べて考えて、時にはカザクラと相談して自分たちの力で探究していくストーリーが面白い。


最初はずかずかと入り込んできたカザクラがフウにとって後に相方となっていく。母を失って孤独で生きていくものだと思っていたフウは、最初はカザクラを追っ払っていた。が、いつのまにか寝床に入り込んでいたカザクラが残したシーツの温かさからフウは母の温もりを思い出し、目に涙を浮かべたカザクラが頭から離れなかったシーンの描写もお気に入り。寄る辺のない者同士はひかれあう。そう本文で表現していたわけではないけどどこか寂しさを抱えて生きてきた者同士の引力を感じた。
カザクラは人相書きが出回って追われている立場であり、人では不可能な動きをみせる。後々事実が分かって『こわれたせかいのむこうがわ』へいく逃亡劇にまで進んでいくのはワクワクにドキドキが加わって行方が気になっていく。
堅実な暗黒郷を描くファンタジーをじっくり楽しめました。

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