
陸道 烈夏(著/文)カーミン@よどみない(イラスト)
〇あらすじ〇
ラジオに導かれ、独裁国・チオウから知恵と勇気で脱出を果たした少女、フウとカザクラ。たどり着いたアマクニは平和な国だったが、しかし二人にはじっとしていられない事情があった。
「カザクラの故郷や家族を探す」。
何らかの事情でサイボーグ化を余儀なくされ、記憶を失ったカザクラのルーツを探るため、フウは高い技術力を持つと言われる組織『ウパニシャド』との接触を試みる。
しかし……謎の女・リリの介入で、彼女が『経営』する「奴隷監獄・ゴトクテン」へと、フウは単身誘拐されてしまって――!?
海と巨橋の国を舞台に、少女たちの新たな脱出劇が始まる……!
ネタバレあるかも
一度は手放したもの「忘れ物だよ」
頭が焼ききれんばかりの重厚なファンタジーありがとうございます!こういうファンタジーを読みたかったんだよ!文を追うごとに高まっていく熱を処理するための酸素吸入がおいつかず頭ガンガンさせながら読んでた。
敵対するボスの登場ボイスが「ハロー、人権足りてる?」なんだけどこっちとしては「ハロー、酸素足りてる?」といいたいくらい。
というのも盛り上がる後半戦を読んでいたのが飛行機の中で、地上に比べると気圧が少し低く酸素が薄い。かえっていい読書体験だったなと思う。登場人物たちが置かれた状況とは程遠いが、アドレナリンをどばどばと出して頭をガンガン働かせる状況に少し近しいと思って。
相棒のカザクラの家族について手がかりを得るために向かった先で血祭りのショーがはじまる。
聴衆を閉じ込め、ぶりっ子を炸裂させて「みんなを奴隷にしたいと思ってます!」と言い放った奴隷監獄ゴトクテンの代表取締役リリ・陽天。背後に仕えるは畏怖と恐怖の象徴である人間軍事力。仲間に何も言えないまま奴隷を養殖する施設に連行されたフウは、そこで本作の総力戦で力となる蘭やイムに出会う。
脱出劇もいいけど、カザクラと同じ武闘解釈を使う人間軍事力との邂逅でまた主人を守れなかったカザクラが打ちひしがれる展開、対ゴトクテンとなったときに対抗しうる力をもつために考え詰めるフウは悩み、自分の無力に苛まれるところからの「忘れ物だよ」の展開は胸があつくなった。虚飾に満ちたチホウにいたころは、上手く立ち回るためにラジオから学べる情報を糧にして生き、逃亡することだけに奔走すればよかった。が、いまいる国では様々なラジオがあって真偽が混じった情報があることに気づく。どのラジオの主張も筋が通っているものだから2つにひとつとはいかず、考え続けて時間だけがすぎていく。仲間が成果をあげている中で、迷い続けて判断を下せないことに思いつめたフウは一度ずっと共にしてきた、時には抱えながら寝食を共にしたラジオを手放した。胸アツだったのはフウが、カザクラが録音したフクモトさんたちによるラジオを聞く展開からですよ! フウにとってラジオが原点であるということ。フクモトさんのラジオによるご教示はフウへの贈り物のようで彼女に気づかせ立ち上がらせた。1巻の時と同じように大切にしてきたラジオから物語が始まり、その中核を担うのがやはりラジオであることがすばらしい。忘れ物を取り戻した。
フクモトさんの言葉を胸に、少女は再び前を向いた。
p208
「お兄ちゃん」
カザクラは、持っていたラジオを優しくフウの胸に押し当てた。胸板を挟んで心がトクンと揺れる。
「忘れ物だよ」
ラジオを受け取り、首にかけた。その僅かな重みに体が打ち震える。
今のフウは、死線を抜けて薬を届けた頃には塩と水不足が起因で母が息絶えていて、1人帰った後、頬を伝う涙をなめて
「成程。男の言った通り塩の味がした」と言っていた時の独り身ではない。カザクラといれば母といた頃に感じていた温もりがある。元チホウ警察機構クロミガチ自立機甲部隊隊長19歳のカガノ・サミヤがいる。本巻から仲間になった者や利害の一致から助力してくれる頼もしい者がいる。頼り、頼られの関係。頭を下げてお願いするのも実力だ。そこからのサブタイトル~少女たちのサバイバル起業術~からの総力戦は読んでいて熱波がすごい。頼もしい仲間一人一人の活躍と危機、連携しての戦い。敵は人間軍事力だけではない。戦名【斬撃戦車】の九獏肋。登場シーンの描写が気合いが入っていて物語の雰囲気に合致していてより夢中にさせてくれる。
頭がガンガンして満足度が高い1冊だった。