Babel Ⅲ 鳥籠より出ずる妖姫 感想

Amazon  BOOK☆WALKER

古宮九時(著)森沢晴行(イラスト)
〇あらすじ〇
この大陸の在り方にまつわる秘匿された真実を、ファルサス王から知らされた雫とエリク。その情報の中から日本帰還への糸口を見いだした二人は、再び旅に出ようとしていた。
 だがその時、突如現れた使者に雫は選択を突きつけられる。招かれた先はかねてよりきな臭い噂が絶えなかった大国キスク。彼女に求められた役割は、残忍で知られる王妹オルティアの遊び相手だという。
「それで? お前は何ができる? 自らの口で述べてみよ」
成り行きから雫は、流行り病とされる言語障害の対処法を確立するという大役を負うことに。失敗すれば待つのは無残なる死。旅の庇護者であったエリクのいない中、雫は一人手探りで解決策を探す。
 そして孤独の姫オルティアとの対峙を重ねるうちに彼女の心根を知り、二人の間柄にも変化が生まれていくのだが……。

ネタバレあるかも

数々の苦境で揺るがぬ不退転の意思

雫と言語障害を抱えた子どもの命がかかった試験を、雫と子どもリオの努力と、ニケの機転によりなんとか突破したと思ったら子どもの命は用済みで処分するという判断を下した姫オルティア。
命がかかった試験は姫にとっては退屈しのぎの余興のように映り、劇が終われば用済みとばかりに捨てられる子どもの命。雫の叛逆が始まる。
このようなことをされるのは初めてだと言うオルティア姫。こんなんできるのは雫と王くらい。冷酷で慈悲なき命令を下す姫の悪名高さは諸外国にまで広まっており配下は恐怖で戦慄くレベル。そんな姫にそう言わせた雫すげええええ!と思うのとそこからの自身の価値を引き合いに出して取引してみせる剛胆さよ。痛快な展開だったわ。雫にとっては命を差し出す覚悟が迫られる場面は何回か出てくるんだけど彼女は引かない。それは一見己の命を軽んじているのではないかと思られるが雫にとっては引き下がった時に生じる後々ずっと背負い続ける後悔という重圧が大きい。繰り返されるひくにひけない背水の陣のような状況。この異世界に転移して何も力を発現しない変わらない日本人だけど「言葉」と態度で立ち向かう。

この世界で初めて目にする魔法と事物、目を背けたくなる惨い光景(雫はもうカッ!と目を見開いて、後に見抜いてやる姿勢なイメージだが)、突破してきた死線。今までの動きからもう彼女はこの世界に染まったイメージ。1人辛い時に姉妹とエリクの名をこぼし、後に今後もオルティアに仕えキスクで骨を埋める気持ちまで芽生えているとは。
そう、オルティアこそ衝突し相互理解を深め友情を結んだ人物だ。オルティアにしてみれば自分の領域にズケズケ踏み込んでくる雫は彼女の中で確かな存在感をもたらし、雫はオルティアに冷たくあしらわれても相手を知ろうし、後に知る姫の生い立ちから力になりたい思いが強くなる。
「人は優しくもある」これは1巻で雫が異世界にきても変わらなく思っていたこと。そんな雫の思いを利用してくる輩はいるが、彼女にはそんな思いが根底にあるからこそめげずにオルティアと対話を重ねてきたのではないか。この異世界ではたまたま言葉が通じるが、人がもつ「優しさ」は言語関係なくもっているのではないか。そんなことを過去の雫の思いから思い出していた。優しくて芯が強く異世界では通じない日本語で意味わからないことを言ってくる不思議な人物でからかいたくなる愛されキャラ。雫はそんな人物像なのかもしれない。
言葉だけでなく、目前まで走って土下座をきめるという行動でも表れているが。
まぁ雫は命が担保されていることをいいことにオルティアに踏み込んでいくわけだが。それがオルティアにとっては煩わしくも新鮮な思いだったのではないか。悪くない相手から気に掛ける相手へ。雫が術をかけられたことがわかった時のあわてようが証明している。
2人の友情の物語の最後には惜別の流れへ。心に沁みるシーンだった。

雫は終始よく動き、雫の活躍が国の行く末にまで関わり、戦記物語となりと目まぐるしく事態が急展開する飽きない物語だった。 生得単語については控えめで内乱、戦乱の話だった。1冊1冊ボリュームがあるので最終巻では言語について深く踏み込んできそう。 この大陸が外の世界の手により実験場となっていること、大陸共通の生得単語という組み合わせから、この異世界が、言語が分かれている雫の世界では到達できない人類の高みを目指しているのではないかと勘ぐってみたり。

古宮九時(著)森沢晴行(イラスト) 電撃の新文芸 2020年12月17日
スポンサーリンク