龍鎖のオリ-心の中の“こころ”- 感想

cadet(著)sime(イラスト)
発売日 : 2020年11月4日
〇あらすじ〇
精霊が棲まう世界で、剣や魔法、気術を競い合うソルミナティ学園。
ノゾムは実力主義のこの学園で、「能力抑圧」――力がまったく向上しないアビリティを授かってしまった。その上、身に覚えのない中傷の噂によって幼馴染みや恋人も失い、周囲から蔑まされるようになってしまう。それでもノゾムは、血の滲む努力を続け、体を苛め抜いてきた。なにも考えないですむように、逃げるように、ただひたすら体を鍛え続けてきた。しかし能力は一向に上がる気配がなく、希望が見えない毎日に心身ともに疲れてきっていたある日。ノゾムは、深い森の中で巨大な龍に遭遇する。絶体絶命のその時、見えたのは体に巻きついた鎖。それをめいっぱい引きちぎったとき、今まで鬱積していた力のすべてが解放されて……!?

少年は能力を抑圧されても、鍛錬を続ける

"逃げてもいい。立ち止まってもいい。でも、逃げているという事実から目を逸らすなーー"
これは本巻の帯に載っている一文。「小説家になろう」2011年連載の作品の書籍化。コミカライズもする。
心身ともに辛い少年が現実から逃げるように剣術の修行に、体を死の一歩手前レベルまで酷使し続け、やがて自分の能力と心に向き合い歩を進める物語。
まず冒頭のつかみがいい。はじめの1ページ後半の話なんだが、今の学園に入学する前の幼少の頃、農村で冒険話や英雄譚に憧れていた主人公は、その話をしてくれる村に越してきた少女と出会う。2人は幼なじみの関係となり楽しい生活を送っていたが、彼女から世界から神童が集まる学園に行くと告げられた時、好きな子の力になりたいから自分も行くと主人公が言う。恋人同士となった2人は学園に入学するが・・・。
学園では誰もが固有の能力を発現しそれを高めていくことになるが、主人公の能力は「能力抑圧」という一定以上成長ができない能力で、何の力にもならず足枷にしかならない能力だった。はじめこそ支えてくれた彼女だったがある日を境に破局し、誤解を解こうとしても冷たくあしらわれてしまう。主人公に覚えのない信用を失墜させる伝聞が広まって周りには誰もいなくなってしまった。また、実力至上主義の学校で、最下級の位に配属された主人公は嘲笑の的となり、蔑まれ、時には目に見える形の陰湿な仕打ちをうける学校生活を送ることになる。誤解を解けぬまま恋人と別れてしまった心のしこりを抱え続け、周りから罵声を浴びせられる日々。

悔しさを滲ませているが、主人公は少しでも強くなれるよう剣術の練習に注力する。魔物がうろつく環境に身を置いて、出会った師範の指導の下で厳しい剣術の修行に明け暮れる日々を送る。急成長していく刀のスキルをどう生かしていくのか期待が膨らみ、徐々にその片鱗を見せていくのが面白いとこの1つ。とある出会いで見た、並々ならぬ努力で身に付けた主人公の刀術に興味をもって、彼を知ろうとする学年主席とその妹。妹の場合はとあることを助けてくれて主人公と友達になりたいと思っている。この主人公の意図しないところで、彼に興味をもち始めたキャラが動いていくところもどうなるのか気になって読み進めていく。
そして一番の面白さは、能力抑圧に向き合い、とある出来事で能力との向き合い方が変わり力の片鱗を見せていくところで、その度合いが大きいほど披露してこなかったぶん胸が高まる。力を自分のために行使するのか、大切な人のためにするのか。
この世界の超常の武器は、精神を糧に力を顕現する魔法と、生命力を糧に力を顕現する気術など。気術による肉体強化や、魔法を剣や拳に宿して戦う者がいる。
逃げた事実と立ち止まっている現実から目を逸らさないことは彼の胸に刻んだ箴言である。
重版しており、2巻刊行が決まっているのでよかった。

味わい深い作品を求める人に

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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