
冲方丁(著) 2021/1
〇あらすじ〇
標的は、日本国民1000万人――。羽田空港に突如、中国のステルス爆撃機が飛来した。女性パイロットは告げる。「積んでいるのは核兵器だ」と。核テロなのか、あるいは宣戦布告なのか。警察庁の鶴来(つるぎ)は爆撃機のパイロットを事情聴取しようとするが、護送中に何者かに拉致されてしまう。囚われた彼女を助けたのは鶴来の義兄で警備員の丈しんじょう)だった。真丈は彼女に亡き妹の姿を重ね、逃亡に手を貸す決意をする。核起爆の鍵を握る彼女の身柄をめぐり、中国の工作員、ロシアの暗殺者、アメリカの情報将校、韓国の追跡手が暗闘する。一方、羽田には防衛省、外務省、経産省の思惑が交錯する。いったい誰が敵で、誰が味方なのか。なぜ核は持ち込まれたのか。爆発すれば人類史上最大の犠牲者が――その恐怖の中、真丈と鶴来が東京中を奔走する。
アクティベイターが発売された頃と同時に「シュピーゲル」という用語も飛び交っていた。
「シュピーゲル」本屋大賞&日本SF大賞を受賞し直木賞候補に選ばれたことがある冲方丁による最後のライトノベル。それを背景にした書影をアイキャッチ画像としてみた。
現場では格闘技、中枢では情報のかけひき
管轄の違いから融通が利かず羽田空港で迎え入れざるを得ない状況にもってくるまでに、領空侵犯していた機体が通った日本警戒網の穴。アメリカが侵攻してくることなどない太平洋側よりも中国北朝鮮ロシアといった北側の警戒を注視している現体制の日本防空の穴といえるのが、沖縄と宮古島の間(沖宮ライン)を抜けて太平洋側へ出ることだという。以上、日本国内レーダーは太平洋側の機体を捉えるのが不得手であるという中国ステルス機が登場する冒頭から興味深い事実?と緊迫感は本編で一貫していて、後に戦闘が始まれば現場での動きを表現しきった格闘技と中枢での犯罪心理学が落とし込まれた情報戦で見せ場が多くなっていく。わくわくどきどきだ。
現場での格闘技戦で活躍するのが、意味深な過去を抱えていて民間警備会社に居場所が落ち着いたらしい主人公。さっそく入社早々にリピーターであり他の警備社員がためらうクライアントからの依頼を引き受け現場に行ったら依頼主が息絶え絶えの様子で、殺し屋との近接戦闘が始まり国際テロに巻き込まれていく。さっそくこの戦闘からみせていく。構えた武器の位置、身構え全てに意味があり対人戦闘に適した使い方とその理由をスピーディーな展開に添えて説明していく。戦闘描写の動きとその意味を具体的に文字に起こしていく、これがすごい。"激しい近接戦闘を繰り広げた"、"目でとらえるのが難しい瞬撃だった"などと抽象的にぼかすことなく細かな動きを文字で表現していく。そのような描写は何者からか逃げていて囲まれて生じた1対多での戦いや、中国武術など何かの戦いの流派があれば、その特色を説明して研鑽された動きと戦闘の様子を内面描写をしながら緻密に描いていく。影武者の優れた隠密行動もいいけど、政府の要人を警護&監視しているあのアメリカのおばさんの戦闘が末恐ろしい。指の向きが筋肉と密接に関係していることを生かしたフィンガーグリップ法の格闘技。
アクティベイターという書名自体が主人公が名乗るアクティベイターという仕事を表し日本とアメリカの国益のために危ない橋を渡るような仕事で、その仕事に従事していた1人が主人公の殉職した妹であり、もう1人が中枢で情報戦と心理戦を繰り広げる主人公の妹の夫である警視正だ。中枢での大人たちとの情報のかけひきも面白いけど、突撃して戦闘しながら全貌を明らかにしていく現場よりの話が胸が高鳴ったし面白かった。
他に味わい深い小説を求める人に
硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。
タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。
少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。