隷王戦記 1 フルースィーヤの血盟  感想

森山光太郎(著) 2021/3
〇あらすじ〇
「降るか、滅びるか」――東方世界を血で染めた覇者エルジャムカは草原の民三十万余へ選択を迫った。次期族長アルディエルは民を護るため降り、剣士カイエンは想い人の神子フランを救うため抗うも敗れ去る。流れ着いた世界の中央、砂漠の都バアルベクで軍人奴隷となったカイエンはやがて、神授の力を行使する英雄たちと、彼らを擁する強大な諸国間の戦乱に身を投じていく……。

大陸全土を巻き込む戦乱の幕明け

はじめに出てくるヒロインと袂を分かち、遠い異国の地で成り下がった身分の主人公が仲間を得て這い上がっていく本作「隷王戦記」は、ある戦記を想起させた。身分が超急降下した主人公オルバが遠い異国の地で仲間を得て大陸を脅かす邪悪な敵との戦いに突入していくという、老練なおっさんを含めた男たちのカラー絵と挿絵がたっぷりで"主要人物であるかわいいヒロインが2冊連続不在"というライトノベルのレーベルなのにライトノベルあるまじき構成で12巻完結させたのは著者の筆力と構成力に他ならない杉原智則「烙印の紋章Ⅴ」を彷彿とさせた。

今後の各大陸を巻き込んだ大いなる戦乱を招きそうな戦記になりそう。1巻時点での開示できる情報を都度話の流れに適度に盛り込み群像小説で読み心地ひっかかることなく最後まですいすい読めたので、はじめは戦記で3巻構成は複雑な気分だったんだけど練りに練られたシリーズなのだと思えたのでよかった。
開示された人ならざる力を持った者の配置と、まだ明かされていない者がどう絡んでくるか。戦において軍勢の多寡は最重要だけど代償を伴う多くの軍隊に匹敵する戦力である人ならざる力で戦況は変わる。全ての大陸を圧倒的な力で血も涙もなく征服していく牙の民(東方世界)や、豪雪地帯を抜けないと行けない西の大陸、熱さと疫病によって向かうのが困難?もう1つの西の大陸、奴隷が戦線に投入され長年にわたって国同士がにらみを利かして戦いを繰り返している平穏に暮らせない世界の中央。加えて銃を所持している国が1つだけという構図。
別れた友とヒロイン…色々と要素があることは色んな物語の転がし方があると思うので今後どうなるのだろう。

ハヤカワ文庫から主人公と練達なおっさんが活躍する戦記が出るなら、同じくおっさんが活躍して、地味なところでさえも面白いと言われてるのに打ち切られた戦記「レオ・アッティール伝」や一応完結できた「烙印の紋章」のような硬派戦記を書く杉原智則氏の戦記が客層的にハヤカワから出ないかなぁって夢をみたい自分がいる。

他に味わい深い戦記を求める人に

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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