機龍警察 暗黒市場 下 感想

月村了衛(著)
〇あらすじ〇
日本のどこかでロシアン・マフィアによる武器密売市場が開かれようとしている。大物マフィアのゾロトフと組んだユーリは、バイヤーとして参加を許された。その背後で展開する日本警察と密売業者との熾烈な攻防。渦中のユーリは自分とゾロトフとの因縁の裏に、ロシアの負う底知れぬ罪業が隠されていたことを知る。時を超えて甦るモスクワ民警刑事の誇り――

ずっと続くしがらみ、呪い事を体感し続けた先の運命的な魔犬の龍機兵で戦う英姿

班長!尊敬と懐疑、ひょっとしたら憎悪の念が入り混じっているだろうが、一番は積年の思いが募っていただろうに。炎の壁に囲まれ、抱きかかえながら泣き叫ぶユーリ。過去の愛人と再会さえ望めない現実。そこからの過去と様様な情動が駆け巡りながら魔犬の名をもつ龍機兵「バーゲスト」に満身創痍の状態で搭乗し、振り絞って奮闘する警察官の姿が胸をうつ。上巻で悲愴な過去を描き、下巻で裏切った張本人たちと奇縁で巡り合い、ずっと求めていた真実を目のあたりにしつつ敵地で孤軍奮闘する。因果の線を辿って戦慄くことがあるだろうにモスクワ警察時代に学んだ技術、闇市場を渡り歩いている時に身に付けた術を支えにフェイクやとっさの英断で屹然と職務を遂行する警察官は、"犯罪者として死ぬより警察官として死にたかった"と再び警察官として汚泥から日の当たる地上に出た時につぶやいた吐露を体現しているように見えた。

-----この国で警察官であろうとするのは、氷柱が炎の上でまっすぐなままでいるようなものだ。
父も班長も、生涯炎に溶けず、毅然として氷柱であった。

P261

ユーリもまた、溶けて消失してはいなかったのだと思う。武器密輸市場の調査に単身乗り込む際に裏切りにあう発端となった「シェルビンカ貿易の事件」の捜査を沖津部長が約束したが、ユーリが数々の障壁をかいくぐって真相を暴き自身で精算する物語でもあった。

武器密輸市場の取引がネット上やリアルでグローバルに流動的に行われる反面、そこに関与する者や組織の国籍が異なることから取り締まりの手続きは複雑化、煩雑化している。現用の法律の整備がブラックマーケットに追いついていない問題提起でもあると感じた。
作者は執筆に際してトム・ロブ・スミスのレオ・デミドフ三部作を意識していたという。警察を扱う際に無視できないという『チャイルド44』『グラーグ57』『エージェント6』三部作を読みたい本リスト(読書メーターの機能)に入れようと思う。

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