
杉井光(著)岸田メル(イラスト) 2011/9
〇あらすじ〇
年末年始、四代目を悩ませていたのは頻発する雀荘荒らしだった。なぜか麻雀打ちとして駆り出された僕は、雀荘で奇妙な男と出逢う。雛村玄一郎―― なんと四代目の父親! 緊迫する親子勝負の裏で、雀荘荒らしをはじめ、無関係に見えたいくつもの事件が結びついていき、やがてよみがえるのは一年前のあの悪夢。 「あの事件をもう一度、完膚無きまでに終わらせるんだ」。 アリスが、テツ先輩と四代目が、そして彩夏までもが、赤い悪夢の残り滓に突き動かされて走り出す──。
1巻で出た麻薬「エンジェル・フィックス」再演
特に用はないけど、いつもの場所でたむろって雑談をする、居心地のいい関係性っていいよねって話。踏み込み過ぎず適度な距離感、そして何かあったら肩をかす。主人公の鳴海もまた、つっこみをいれつつもだいぶ馴染んできているし各相手と接するときのかってが分かってきている。そんなことを思った導入で本巻は、四代目の家族の話と、1巻の悪夢となり彩夏が屋上から飛び降りて記憶喪失になることになった元凶「エンジェル・フィックス」の再来で決着をつける物語となった。不明点を残して心残り、しこりとなっていたあの事件に終止符を打つ物語。麻雀の話で繰り広げられた漫才で軽快に進んだ矢先に麻薬の再登場。彩夏を絶対に巻き込まず察知されまいと動く鳴海の胸中に、物語の進行に応じて感情と理性がせめぎあっていく。遠ざけたい気持ちと、協力してもらいたい合理的な考え。後半での彩夏の動き。内部での衝突。彼、彼女だけでなく麻薬によって傷ついた人に近しい人達が本作の登場人物であり、各々が目指す着地が同じでも、抱えている様々な思い、痛みが描かれていて多くの者を巻き込んだ敵に決着をつけるにふさわしい読み応えだった。そして毎巻の苦くて温かい印象を残す最後はこのシリーズの余韻に大変あっているとしみじみ思うのであった。
前巻から間をあけて読んでみて杉井光のたとえのセンスを再確認した。比較的たとえが多いと思うけど多すぎると感じることなく、どれもすうっと入っていく感じ。これもまた神様のメモ帳の楽しみの1つ。