影の中の影 感想

月村 了衛(著) 2018/3
〇あらすじ〇
血も凍る暴虐に見舞われた故郷から秘密を抱えて脱出したウィグル人亡命団と、彼らを取材中のジャ ーナリスト仁科曜子が、白昼の東京で襲撃された。中国による亡命団抹殺の謀略だ。しかし警察は一切動かない。絶体絶命の状況下、謎の男が救いの手を差しのべる。怜悧な頭脳と最強の格闘技術をそなえた彼の名は、景村瞬一。冒険小説の荒ぶる魂がいま甦る。疾風怒濤のノンストップ・アクション。

事実から派生したウィグル族の声を守るめの血塗られた戦い

現代の裏社会のテーマを物語に落とし込み、風刺のきいたエンタメ作品を手掛ける月村先生の『影の中の影』は、中国で弾圧されているウィグル族の問題を取り上げつつ、真実の声明をあげようとしている彼らを抹殺しようとする中国精鋭の暗殺部隊との戦いを描いた活劇小説。
豊潤な土地と資源を求めて中国がウイグル族を弾圧している様相はメディアや個人の発信で幾度か見聞きすることがありどこまでが真実、でっちあげなのか分からないのが実情だと思う。この本巻であげられたウィグル族への仕打ちは全て事実である、事実であると文中で言っている。徹底的な情報統制を中国がしいているのでなかなか出回る事実ではないし、外交で中国と事を荒立てたくない日本政府は、事実を発表しようとするビジネスのメディアを封殺にかかる。だから個人で拡散をしている人がいる。それも事実なのかも分からない。何か公式の目を通って出されたものかも分からないから。国を相手にすると人道上の見地がたやすく命の尊厳を無視した外交上の見地にかわることを本作で表現している。
メディアが発表する情報の真偽について、どれほど諸事情で深く踏み込めず抽象的な内容になっているのか、一部事実を脚色して扇動する意図の記事になっているのかも分からない。
だから本作で描写される、ウィグル族を取り上げた参考文献に裏打ちされた事実を物語を通して読むことで痛々しさといった印象が深まる。社会的なテーマをとりあげて物語にする月村先生の本を読むことは読書の楽しさを追求しつつ社会情勢も学ぶことができると思う。今のところ「機龍警察」シリーズ、「土獏の花」を読んだがどれも巻末に記載されている参考文献に目を光らせてしまう。

ウィグル族の問題を取り上げようと取材をしていたジャーナリストが、日本に逃げたウィグル族、頼りになる「影」のエージェントとヤクザと共に、口封じのため抹殺にきた中国と戦う。
この戦いの描写について。目に見える戦いと目に見えない心の戦いの書き分けと、それらが融合して心身で戦う描写、一気に加速する緊迫感などなど、読み入る要素が続いて没頭していた。

システマは確かに軍隊の格闘術だ。敵を倒すための方法だ。しかし、同時に破壊の否定を求めるものでもある。

P316

記録上は死人となっており「影」として活躍する本作のヒーローが使用するロシアの軍隊格闘技術「システマ」生活レベルで応用できるシステマの神髄と見せ場の戦闘の数々が披露されていた。日本刀を使用した、剣の師範から習得した抜刀術も殺傷レベルが段違い。
「呼吸」「リラックス」「姿勢」「動き続ける」このシステマ四大原則がどのように戦場で活きてくるのかありありと描写されていて濃密な戦闘だった。個々のヤクザの狂気的なところ、心残り、ウィグル族を守る戦士としての姿など、メディアで取り上げられることはないが、しかし共に戦った仲間の記憶に鮮烈に残る勇ましい姿。

人間は裏切る生き物だ。だが同時に、信義も誇りも、厳然として存在する。

P227

物語で語られ、どれも影が身をもって経験しているが故、重みがある一文だった。

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