ひげを剃る。そして女子高生を拾う。5 感想

しめさば(著)ぶーた(イラスト) 2021/6
〇あらすじ〇
共に北海道の実家へ向かう吉田と沙優。しかし扉を開いた沙優を待っていたのは母の平手打ちだった。母と、そして自分と向き合う沙優、それを見守る吉田の決意は……。恋人でも家族でもない二人の物語、堂々完結!

ヒロインは「人生の春」を迎える

家出に終わりを告げて高校生の生活に戻るための最終巻。
原作が完結を迎えられること、アニメ化されて最後まで描くのは作品としてとても幸せなことだと思う。

なにをどうしても高校生のうちは高校生でしかいられない、しかし普通の高校生生活を送っていなくてもヒロインにとって主人公と出会えたことは若人の思い出に強く刻まれる。北海道に戻ることは、自分のせいだと思っている過去の悲劇と向き合うこと。母親と相対すること。 主人公の言葉は1つの事実を突きつけた。ヒロインは学校につくまでは支えてもらって、自身の過去と向き合う時は自分1人で今のところの落としどころを見つけてこれからの向き合い方を考えるようになった。自責の念に駆られすぎても、それでも「生きる」ことを場所を転々としながらもできたことは1つの彼女の強さではないかなって。母親と面と向かって大声あげて感情を発露したときも、それだけ抱え込むことなくはきだせるならもう大丈夫ではないかと思っていた。家出する前にたった1日でも家にいて考えれば再起は早かったのかもしれない。

1巻発売時から追いかけて完結まで3年。リアルタイムで読んでいた人は感慨深いのではないだろうか。ヒロインが家出するところから主人公と再会するまでの3年が、そのまま1巻から最終巻までの年数だからだ。3巻から4巻出るまでの1年7か月の待ちがヒロインと再会するまでの時間を表しているようだった。言うなればあのときの続刊を待っている時の気持ち
「打ち切りなのか?でも売れ行き好調って出てたもんな」=「このままヒロインとお別れじゃないよな?会いに行くよって言ってたもんな」 

後半の内容と比肩するほど前半のカフェでのやりとりが印象的だった。
「高校生ってカフェにいくものなのか」と過去思ったことを振り返り、カフェにて主人公を前にした今、自分もカフェに行ったりするようになるのかなと「高校生らしさ」を見出さそうとしている(ように思った)。高校生に戻るという状態の話のよりも具体的な高校生の生活を彼女なりに考えていることが前進だと思った。既刊で主人公に普通の高校生活ってやつを聞かされた時よりも今のほうがより鮮明に思い描くことができる。高校生活に戻って(友だちと?)カフェにいく。それは青春とも言えると思った。
青春とは若者の輝かしい時代を指すものであると思っていたが、実際は夢や希望があって、エネルギッシュな若い時代を「人生の春」にたとえたものであるという。なるほど、主人公との出会いから始まり、人生の先輩方やできた友だちとの日々の中で支えられ、とめどなく湧きおこる情感を物や姿勢で放出させて心の整理をしてきて、最後は自分で決めて行動に移したことなど…家出してからの1年間の選んだことが結実して、ヒロインはうららかな春の日差しを浴びて前を向いて歩めるようになった「人生の春」を迎えたのだと思った。表紙がそれを象徴しているようだ。

他に味わい深い小説を求める人に

硬派戦記「烙印の紋章」「レオ・アッティール伝」を手掛けてきたの著者の新シリーズ。

タイトルで想起される軽やかな筆致の物語ではない。
じんわり温まる小説や心揺さぶられる小説、熱い小説に読んでいれば幾度出会うことはあれど、はじめから最後まで味読ができた上で上記のどれかの小説たり得るものは、電撃文庫でデビューして20年活躍している杉原智則先生の小説が筆頭に挙げられる。面白いシーンで楽しませることも大事だけど小説の本質は、読ませる文章で深い没入感があり、味わい深く読める小説であると思う。物語を形作るのは文章だから。面白い上に味読ができれば、最高な小説に化ける。というのは杉原先生の本を手に取ってパラパラめくれば直感で全体的に文章がぎっしり詰まっていると分かる。とにかく読ませる文章と()のキャラの心の声によるテンポが堪らない。笑みをこぼしたり、ぐんぐんのめり込んだり、ドン!と考えさせられる心境に陥ったりと地の文の多さが魅力にしか映らない小説。会話の勢いでごまかさず、紛れもなく地の文で形作る物語で勝負している小説。
物語は、英雄の1人が災厄を阻止した平定後、敗戦国に立って目のあたりにした事実から自身の正義に問いかけ、悩み、虚飾に満ちた真実にメスを入れる物語。現地に立ってみて体感することは、真実は事実を曇らせるということ。読者の現代に通底するテーマがあり、現実に影響を及ぼす力があるライトノベル。
イラストレーターをかえた2年ぶりの続刊に、作品を追っていた多くの読者が歓声を上げた。

少しでも気になったら、1巻の熱いAmazonレビューの数々をご一読ください!
3巻は2年ぶりの続刊であるにもかかわらず1巻よりも星の数が多いのでファンの方々がどれだけ切望されていたか伝わってくるかのようです。著者はブログやTwitterをやっておらず宣伝は発売時の公式アナウンスだけなので多くの口コミが集まるのはうれしい限り。

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