ひきこもりを家から出す方法 感想

猫田佐文(著) 2020/1
〇あらすじ〇
僕がひきこもりになって十年が過ぎた。
もう二十四歳になるらしい……。 影山俊治は、些細なつまずきが原因で自室から一歩も出られなくなり十年。 そんなある日「ひきこもりを家から出す」プロ集団から、敏腕メイドが派遣されてきて……!? 「ちょっと生きづらい」と感じる、すべての人へ―― 圧倒的当事者感で語られる切なくも優しい再生の物語! 2019年ノベル大賞 大賞受賞作。

止まっていた歩みを自分の意志でもう一度

2019年ノベル大賞 大賞受賞作。
ひきこもりが自身で考え動き出す「再生」、家にやってきたひきこもりを家から出すプロ集団の1人クリスの献身や寄り添い、プロと両親の会議を経て実践していく家族など共感して感動した。比較的軽度のひきこもりとあったが本作の巻末にあるひきこもりの関連の数々の参考文献を生かした救出が物語に落とし込まれていて学び共感しながら読んでいた。ひきこもりの狭いエリアを舞台に、主人公の心の移ろいを一人称で丁寧に丁寧に綴っていく。3人称視点で考えを改めた家族の協力や支援を描く。数々の格闘技を身に付けた最強美少女メイドのクリスの寄り添いや献身ぶりから伝わる真摯な姿勢。
座学で教えられるよりも、物語を通して没入しながら学び、学んだことがどのように主人公の変化につながっていくのか追って印象が深くなっていく。1人のひきこもりの救出を描いた1例にすぎないのだろう。しかし本書のひきこもりの知見は同じひきこもりに悩める人のみならず、将来に対して不安がある人にも通ずると思う。
周りに言われなくても自分がどうにかしなくちゃいけないのは心底わかってる、ましてや部屋にひきこもって現実から目を背けて不安を紛らわすために金のかからないことに熱中しつつもふと自分と向き合った時に不安がこみ上げてくるひきこもりなら尚更。本書の言う欲求減衰でひきこもりのままでいいと思っている人も現実にはいるかもしれないが、自身や身内の今後など、先々の事を考えることはあるだろう。このまま自分はどうなっていくのだろうと。

首をかしげて上目遣いで頼み事をする美少女メイドを見てこれは卑怯だと思う主人公。クリスがリモコンの操作が分からなかったり、ネットの掲示板を知らなかったりするのは、主人公に何か達成感を覚えてもらうこと、人に何かしたら褒められたり感謝されたりすることを体感してもらうための立ち回りなのだろうと思った。家政婦として雇われていることになっているし現代の生活レベルに必要な教養はたたきこまれているだろうから。
訪問販売の人とクリスの玄関でのトラブルでは、クリスが主人公の味方であることを立証するためのものだと思った。しかしそんな上記の邪な感想などクリスの行動を追っていけば吹き飛んで、彼女のひきこもりを救出する本物の言動が胸を打つ。順調に主人公が再生の道を進んでいるかに見えて再びふりだしにもどってしまった時のやりとりとか。

「ありません。はっきり言いますが、自分の問題は自分が解決する以外に道がない。(略」
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「(略) ひきこもりを支えるのは近道のないマラソンと同じです。家族はペースメーカーで給水係なのです。(略)」

P203,P204

「逃げてもいい。立ち止まってもいい。でも、逃げているという事実から目を逸らすな」
とある小説で読んだ一文が脳裏をよぎる。
多くの心のこもった寄り添いから自分に向き合って、己の中で生じた「~したい」欲求に基づく行動を重ねて、途中くじけてもはきだして前に進む主人公の「再生」の物語に万感胸にせまった。
本書はひきこもっている人、ふさぎ込んでいる人、将来を考えて不安になっている人のそばにそっと置いておきたい1冊。

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