読者の心にささったメモ帳はどれか「神様のメモ帳9」感想

杉井光(著/文)岸田メル(イラスト) 2014/9
〇あらすじ〇
春休み、僕の前に現れたのはアリスに瓜二つの姉、紫苑寺茉梨。 「有子と一緒に暮らして、守ってあげたいの」 紫苑寺家の当主が危篤で、面倒くさい遺産相続問題にアリスも巻き込まれそうなのだという。 アリスに付き添って赴いた病院で、起きてしまった殺人事件。犯人だと疑われて拉致されたアリスを助け出すため、事件を調べていくうちに、僕はアリスの秘められた過去に触れ、紫苑寺家の闇を垣間見ることになる。そして宿命的に訪れる、探偵との別れ――ニートティーン・ストーリー、最終章。

アリスの過去が露わになり、主人公鳴海の激走を描く

冒頭で鳴海(主人公)が語った家族の話。既刊で彼の家族の話はあった。9巻で生々しい酷なところが描かれたのと同時に、ヒロインであるアリスの家族構成や生い立ちが語られる最終巻だった。

「家族というのはね、お互いを無条件で赦し合える最小の社会単位だよ。だから犯人蔵匿と証拠隠滅が罪にならないんだ。借金だって契約書もなしに平気でするだろう?」

神様のメモ帳8巻 P11

前巻でそういったアリスの言葉を思い出す。9巻の途中でいくら鳴海がアリスを解放したくても、血脈に伴う数々の問題に巻き込まざるを得ないといった切っても切れない関係が、血のつながった家族であるのだと思い知ることになった。一気にアリスの血縁者がごろごろ出てきて、相続の欲望が絡み、若干引け目を感じてしまうほどにドロドロな関係、問題が根底にあった。最後まで。対してじごろおじさん自由闊歩してるなぁ!と思う。

アリス。きみが探偵をするたびにいつも噛みしめていた真実の冷たさを、僕はきみの座っていたこの場所で今さら味わっているよ。墓を暴くたび、死者の代わりにきみが血を流していたんだね。

神様のメモ帳9 P249-250

1巻のアリスの言葉を思い出す。外国で飢えにより餓死していく子ども、ほんとのちょっと誰かが介入していれば救えたかもしれない命や資産が潰えていくのは全部「ぼくのせいなんだ」って意味合い言っていたようなアリスの言葉。墓に埋没してしまった死者の言葉や想いをこの世に掘り起こせる職業は2つしかない、作家と探偵。
1巻から今までアリスがどんなに鳴海を案じていたか。1巻の時点で、大切な人を変えてしまった麻薬問題のために身を挺していざなう天使を探しにいく主人公、テツと賭け事をした証人ありの喧嘩等他にも色々とアリスの想定外の鳴海の行動がたくさんあった。そんな鳴海が気がかりになりつつ、真っ先に確度が高い答えにたどりつき死者の代わりに血を流していたのがアリスなんだと最終巻にして思い至る。ブレインがアリスであり、ニート探偵の助手としてアリスの目となり手足となり、時に探偵を驚かせる閃きをもたらす頼もしい相棒のような鳴海。
本巻はそんな頼もしい助手が、いつも通りのグレーゾーンを渡りながら既刊で出会った人のえにしを力にして総動員してやりきる「たった1つの冴えたやり方」を見せてくれた。贖罪で沈みゆくアリスを引きずり出す鳴海の決起を読んだ。

そして本巻の改行を挟んでからのメタフィクション一文は、鳴海の歩みとこの本の作者がフリーターとニートを経験していることを思えばとても得心がいく。
最後はアリスが1巻で最初に言った職業が並ぶんだから、なんて物語の「結」にふさわしいんだろう。

読者の心にささったメモ帳はどれか

特に用はないけど、いつもの場所でニートやニート予備軍、不良が集う平坂組の組長が雑談をして、主人公ナルミがつっこみを入れて、近くに手作りアイスが好評のラーメンはなまるの店主ミンさん、そこでアルバイトする主人公の同級生の彩夏いて、そんな人たちを監視カメラで見ているアリスの、互いに踏み込み過ぎず支え合う物語を綴った数々のメモ帳でどれが読者のお気に入りなんだろう。心にささったんだろう。

自分は、迷いなく6巻のミンさんの父にしてラーメンはなまる創業者の花田勝の物語だ。次いでホームレスの話の7巻、麻薬の再来の8巻だろうか。思えば、心に届かせるためにねじまげた真実は嘘ではなく物語の5巻から、ラーメン店主の物語、切ない父娘の物語、エンジェル・フィックスと感動と苦みを残した寂寥感ある神様のメモ帳らしい読後感が連続した物語で感慨無量。

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