少女と少年と海の物語 感想

クリス・ヴィック(著)杉田七重(翻訳)
〇あらすじ〇
そのヨットには七人の少年が乗っていた。だが、激しい嵐で転覆。救命ボートに乗り損なったビルは、小さなボートで漂流中、他の船で難破したらしく同じく漂流している一人の少女を救出する。少女はベルベル人のアーヤと名乗る。ビルは乏しい食料を彼女と分け合い、アーヤはビルに物語を語って聞かせる。極限状況下物語の力が二人の心を救い、互いに心を通わせる。だが二人に刻々と死の危険が迫っていた……。

少年と少女が生き抜く生存の話に物語が寄り添い、物語になぞらえて

東京創元社2年ぶりのライトノベル、と書きそうなところで正式には2年ぶりのヤングアダルト作品。ヤングアダルトとは広義で中高生を指す。
嵐で1人ボートで漂流していた主人公が、海上に浮かぶ樽の上で意識を失っている少女と出会い共に生き抜こうとする物語。主人公がかつて乗っていた船の名前がパンドラで、少女はその船と同じ名前のお話から現実に希望を見出そうとしている。そのお話は、パンドラという名前の女の子が神々からもらった壺を開けてみると悪い精霊(ジン)が現実に飛び出てしまい、最後の残ったものが希望であるという。現実をお話に見立てると、この過酷の状況を作り出している要素(酷暑、飢え、渇き)1つ1つが悪い精霊(ジン)だけど、共にいる少年と少女には希望がある。そしてお話が大事であると言う少女に少年が問うところが、本作の導入からの本編に思えた。

「お話は大事なの。食べものと水が大事なように」
「くだらないな。ぼくにいわせれば」
「いわせない」

P60  

そう言っていた主人公が少女が語るお話を聞いて、次第に考えがかわっていく様子が読み応えあるところだけど、酷な環境下だからこそ物語を聞いて普段より強く印象に残るのではないか思った。わずかな食糧、強い日が差す酷暑、生活エリアはボードのみで、外部からの助けが期待できない状況。
本編を通して、物語に触れて沸き起こった情動によって言動に表れることが良くも悪くもお話の作用であると思った。

自然に恵みをもたらす太陽が体力を奪う凶器のように映る。その中で海の生き物を殺して食べるといった「命をいただく」ことに「命のつながり」を強く生々しく実感した。酷暑や、海に潜む人の命を狩る生き物、やってくるかもしれない大嵐といった自然の恐ろしさと、命を食べて2人で光害が全くない満点の星空を見て語り合うといった宇宙を含めた天然の贈り物に、森羅万象の脅威と恵みを感じた。

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