
森日向(著)にもし(イラスト)
〇あらすじ〇
この世界に大地はない――世界は一度ばらばらに崩れ落ち、人々は大地から切り離された浮遊島で生活をしていた。とある孤島で両親を待ち続けていた少女・アリアは、飛空船乗りの青年・泊人と出会い、両親を捜す旅に出る。世界を変える《干渉力》の才能を持つが故に人々から疎まれ、心を閉ざしていたアリア。自由気ままな飛空船乗りの泊人や、文化や価値観の異なる島の住人たちとの交流のなかで、少女は《風使い》としての力を開花させていく――。
帯、タイトル、装丁が物語に沿った作りでうれしい、純然たるファンタジー作品。
大地が存在しない世界を舞台に、飛空船で浮遊島を巡って探し物をする主人公と、彼に付き添い両親探しをする少女による空の旅の物語は、悲喜や現実的な話、ファンタジー色が濃いお話がありバランスがよく、根底に「優しさ」が通貫していた。
本の入り口に立って作品の雰囲気をつかむ装丁
ラノベ読者は読もうと思うライトノベルを手にして読むまでに何を見るのだろうか。表紙、裏表紙、カラー口絵見てから本編を読んでいく流れが大半だと思うんだけど、本作はカラー口絵に、本編に描かれない主人公と少女が出会い共に旅をすることになるきっかけが書いてあって、そこで登場人物の第一印象を少しつかみ、絵で作品の雰囲気を感じてから物語に入ることができて楽しい本の入り口だと思った。そして初めに抱いた印象がさらに深くなっていくようで、さながらどんな旅になるのだろうというわくわく感が持続して思い出深い旅路になる軌跡を描いた物語だと思った。
悲喜交々の旅路で自分らしさを見つけ、笑顔で針路を見据える
はじめの1話で寄った浮遊島の話から、物に宿る精霊がいて楽しそうで心が弾んだ。アリアの世話焼きな一面がわかる話だった。そして頭がまわる主人公の一見ぶっきらぼうに見えても、使命感があり、アリアをよく見てくれていて彼女の意思を尊重して背中を押してあげているような人柄が垣間見えて、後の浮遊島の話でもこの間柄の2人が今後の旅路での出来事の中でどんな掛け合いをみせてくれるのか期待して、楽しむことができた。
主人公のアドバイスである「己の心に向き合うこと」がアリアの心の移ろいを描く上で大事な核だった。
2人が出会った浮遊島で主人公に看破されてから、彼のそばで素の自分で感情を表現して干渉力制御のため己の心に向き合っていくアリア。そんな行いがきっと奏功して旅の先々で、かつて周囲の顔色をうかがって自分らしい言動をできていなかったアリアが、優しさを外に向けてちょっと暴走気味になってしまうところが微笑ましく映り印象に残る。直情的になって先走ってしまうところを主人公が調整する。そこはユーモアがあって和む。
本編を通してアリアがこんなにも朗らかで心根優しい少女であると伝わった。顔色をうかがうことは1つの優しさの表れだと思う。取り繕った笑顔から今は大輪の笑顔を浮かべている。読み終わった後、表紙がそれを証明していた。