テスカトリポカ 感想

佐藤究(著) 2021/2
〇あらすじ〇
メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。

買って積んでいたら第165回直木賞を受賞していたクライムノベル

禍々しい血肉の資本主義と古代文明が顔をのぞかせる犯罪小説

麻薬密売人の話から始まり、人の死の上に成り立つアステカの儀式を執行し、人の各部位が売り物になる様相を描き、血と黒のビジネスモデルに戦々恐々し、アステカの神の御業が一貫する犯罪小説でありながら、色んな犯罪者のもつ思想やアイデンティティに魅せられ、その人たちが交わって始まる真っ黒な深淵のような底知れない悪事に畏怖する。 莫大な金が動く犯罪の物語の世界に入ったなら、このまま終わらせないで色んな極悪な決行シーンを見てみたい欲に駆られるような。縁遠い話でありながら、だからこそこんな真っ黒に塗りたくられたブラックのところどころに光る艶を味わうような深奥な物語だった。

1人の母の生い立ちとその息子(コシモ)が闇にのまれていく。導入が母の話なんだけど強烈なスタートをきってからのアステカの話になり、この物語の極悪犯罪の中心的人物でありながら現代のアステカ儀式の執行者にして麻薬密売人であるバルミロとその家族とアステカの神にどう影響されていくのか描かれていく。コシモやバルミロに限らず色んな登場人物の生い立ちから現在に至るまでのそれぞれの視点で描かれる話、のちに交わって生み出されるドラマに魅了された。0から1にするのは難しいが、人は簡単に0からマイナスに堕ちていく。堕ちた者は日の目を見ず、人の目が行き届きにくい影の世界で生きていく。おなじ影の者同士の感傷やただ求める享楽のためだけに犯罪を重ねていく者、一度味わってしまったがためにさらなる旨味を求める者。
また、世界規模の悪の需要というものを意識させられた。だから莫大な金が動く。国の法律が及ばない、整備が追いつかないダークウェーブのブラックマーケット、麻薬密売組織、臓器売買の組織の影響力。
臓器売買ビジネスの商品である需要が高い日本の子どもに日記を書かせる理由のところが一番印象的だった。確かに…と思いながら恐ろしい話に関心を示してしまったと思いつつ、顧客に強く訴えかけられる心のケアにまで行き届いている闇の手に感心した。

拷問の内容も凄絶である。スプレーで氷結させた腕をハンマーでぶっ叩いて血肉のシャーベットを作るってなんだよ。バルミロさん、心臓をくりぬいて行う儀式だけでなく拷問もインパクトがある。生まれてからの人生を描く話でもあるので彼の最後のほうについては色んな感想が出てきそう。コシモとバルミロ、コシモとパブロの話もいいな…娘の話もアフターにあるとかうれしかった。導かれるままに悪事の片棒を担いできたコシモが解き放たれどんな生路を歩んでいくのか。

バルミロのやっている儀式と古代文明の描写が既視感あると思ったら子どもの頃に見たドラえもん太陽王伝説だった。

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