
古宮九時(著)森沢晴行(イラスト) 2021/7
〇あらすじ〇
キスクでの激動を経てファルサスに帰還し、子供用の言語教材を作成する仕事についた雫。エリクと協力して引き続き日本帰還の手立てを探り続けていたが、その鍵となるはずの外部者の呪具、秘された歴史を記した本の一冊が予想外な場所から見つかることに。一方、もう一冊の呪具を保持する邪悪な魔法士アヴィエラは、突如として大陸全土に向けて宣戦布告する。
「私の名はアヴィエラ。七番目の魔女。時代の終わりと始まりでお前を待っている」
決戦の地は、禁呪によって異界化した亡国ヘルギニス跡地。ファルサス王ラルス率いる連合軍が結成され、呪具の片割れを所持する雫も否応なく戦いに巻き込まれていく。神話の時代に遡る言語の由来、子供達が言葉を失う流行病、この世界を観測する外部者の存在、そして現代日本からやってきた雫が言葉を解する意味。その全ての謎が一点に収束して明かされていく。長い長い旅の果てに、少女が知る真実とは――。
共に学んだ言語が2人の思いをつなぐ
電撃の新文芸で再始動してシリーズが完結を迎えられたことは、制作陣が先んじて喜びをかみしめ、発売を知った読者が完結まで刊行されることに安堵して、何よりもこの世に産まれた物語にとって喜ばしいことだろうと思った。言葉にまつわる異世界転移ファンタジー。
まず、最終巻の一番のつっこみはエリクだった。エ、エリク!? 後半にエリクが激走する前後で一番の謎が説き明かされていくわけだが、雫と共に旅して言葉を学び、言葉と向き合ってきたエリクの爆発ぶりに彼の想いの発露を見て、対してこの世界が好きな雫が自身の取るべき選択を決行していく姿に哀愁を感じて、すぐに雫の世界への愛と芯の強さを再び思い至るわけだ…
最終巻を読んだ読者の多くが感動したシーンは最後だろうか。最後にふさわしい心動かれる場面に物語の核心とも言える言葉があり、絵があって「ああ、よかった!」と本を閉じて余韻に浸る流れだと思う。そこもいいけど物語の最後の一歩手前、雫自身が分からなくなってしまった時に、共に学んだ言語が2人の思いをつないだシーンが一番のお気に入りだ。 生得言語の謎に迫りつつ言葉の魅力を知り戦闘が生じる物語ではあるがやはり「言葉」で思いを通じ合える感動は、雫とエリクの今までの旅路と関わりを知っていてこそ心に響く一場面だった。