
アンデシュ・ルースルンド,ベリエ・ヘルストレム(著) 2017/2
〇あらすじ〇
凶悪な少女連続殺人犯が護送中に逃走した。市警のベテラン、グレーンス警部は懸命にその行方を追う。一方テレビでその報道を見た作家フレドリックは凄まじい衝撃を受けていた。見覚えがある。この男は今日、愛娘の通う保育園にいた。彼は祈るように我が子のもとへ急ぐが・・・・。悲劇は繰り返されてしまうのか?
北欧ミステリー最高の「ガラスの鍵」賞を受賞した<グレーンス警部>シリーズ第一作。次巻の「ボックス21」、「死刑因」、「通りの下の少女」と続いていく。
少女連続殺人犯を殺害して事件を未然に防いだ男はどう制裁されるべきなのか
この小説を読んで、提示されているように見える問題の解答の落としどころは読者がしみじみ考えていかなければならないような気がしてきた。読者が作中の市民だったとして、1人の意見が集まって多勢にならなければ国へは波及しないだろうけど。判決と整備されている/されようとしている法の重責に感化される読後感。
一旦正義の執行であったと判決してしまえば、それを逆手にとって利用してくる輩が出てくる問題、反対の判決をすれば国がひどく批難される。検事側弁護側、世論やメディアの煽りで揺れ動く中で、だがしかし揺れ動いてはいけない善悪の判決をしなければならないと思った。
小児性愛者である脱走してきた少女連続殺人犯が目をつけていた保育園に愛娘を送り出した父の焦燥とその後
冒頭は脱走してきたロリコン野郎と、性的に暴虐な仕打ちを受ける少女二人の心中が語られていて、このシリーズを読むにあたっての読者の覚悟が試されているようだと読み終わって思う。凄惨な話になるだろう。酸鼻を極めるような殺人とそこからじわじわとあぶり出されていくこの国の在り方や刑務所の疑問点が浮上してきて、酷なミステリーにとどまらず社会派ミステリーである点に興味がそそられていく。このグレーンス警部シリーズの実在を下敷きにフィクションを織り交ぜた物語の続編が気になっていく。続刊にあるスウェーデンの地下道の悲惨な生活を描いた「地下道の少女」が気になる。話を戻して惨く殺された少女たちの事件から数年後、脱走してきたロリコン野郎が目をつけていた保育園に愛する娘を送り出し、野郎の目に父親と愛する娘が入ってしまった事実と、その日の日中に軽く会釈した野郎が指名手配されて報道されている事実、そこから焦燥感に駆られて動き出す父とその後の話の流れの中で、酷な展開が重ねられていく。父親の心中や、ロリコン野郎の取り調べをしてきたグレーンス警部の心中などはらはらする展開に追随する、被害者と取り締まる側の憤りや悲痛な思いを刻々と描いていて魅入られていく物語だった。
スウェーデンに死刑制度はない
ロリコン野郎はただ己の支配欲と小児性愛欲に突き動かされ、それを成し得るためにのみ頭を働かせるような人物で、そんな男に人の道理や善悪など無に等しく、精神病院では軽い症状と診断されてしまう始末。過去のグレーンス警部の取り調べで答えた少女連続殺人犯の言葉が生々しく激烈だった。
「あの割れ目が、芋を待ってんだよ」
「なあ、グレーンス、九歳の割れ目、味わったことあるかい」
P187,188
そんな取り調べがあった後の再犯なので日本だったら死刑に値しそうな重罪犯。
だがスウェーデンに死刑制度は存在しない。どころか北欧にはなくて、世界的に見てみるとない国はそこそこあるし、存在はするが10年以上執行していない国を含めれば多いといえる。よく調べてみた。
世界を200ヵ国くらいとみると死刑を執行している国は50ヵ国くらいだった。